はのいのおもいで

ハロン湾へのゲートシティはハノイである。7年ぶりのハノイ訪問だったが、元々が日程に余裕のない旅である。ハノイは1泊のみ、散歩くらいしかできないスケジュールになってしまった。

昼前にハノイに着いた。空港から旧市街のホテルに向かい、チェックインする。

荷物を置いて旧市街をブラブラ歩き、昼食にフォーを食べに行った。前回は通りを駆け巡るスクーターの群れに恐れをなし、半泣きしながら死ぬ気で横断歩道を渡ったのだが、なんとか慣れてきた。

フォーを食べてから、ドンスアン市場を見に行った。旧市街の大きな市場である。市場巡りは楽しい。

街歩きをしながらGoogle Mapを見ていたところ、別の市場を見つけた。旧市街から大通りを越えて川沿いにある、ロンビエン市場である。Google Mapによると、早朝から始まるものの、昼くらいで閉まってしまうらしい。

翌朝はハロン湾に行く日だったが、早起きしてロンビエン市場に向かった。

歩道橋を見つけ、大通りを渡って市場へ向かう道に出た。早朝にもかかわらず、かなりの人出である。

通りを進むと、路上に屋台のような店が並んでいる。

そんな道端で、天秤棒を担いだオバチャンが商品を仕入れている。山のような荷物を載せたバイクのオッサンが、荷物を積み直している。

さらに進むと、ボロくて暗い市場があった。

市場に入ってみる。

ものすごいエネルギーである。しかもベトナム人は歩く代わりに、バイクで市場内に乗り入れている。

僕は周囲のベトナム人から浮いていた。旧市街からは大通りの反対側ということになるが、地元の人以外はロンビエン市場まで来ないのだろう。

せっかく来たので写真を撮りたかったが、市場のエネルギーに打ち負かされた。それに縦横無尽に走るバイクが怖くて、写真を撮っている場合ではない。

それでも市場をウロウロと歩き回った。

通路でバイクを壁側に避けると、壁沿いに積んであった檻に入れられていた犬に小突かれた。犬でも僕が周囲から浮いているのが分かるのだ。

ベトナムのバイクに慣れたと思ったが、そんなことはなかった。カメラが壊れる覚悟をして、死ぬ気でロンビエン市場を再訪しようと思った。半泣きしてもいいではないか。

べとなむのおもいで

短いタイ滞在の後、ベトナムに向かった。乾季の始まりの時期、ハロン湾クルーズに行こうとの魂胆である。

一口にハロン湾クルーズと言っても、安さ重視の日帰りボートから、スパ付きの高級船まで幅が広い。日の出や日没など、自然のマジックを楽しむためには船上で宿泊する事を勧められていたので、迷わず一泊コースにした。

そこから先の選択が面倒くさい。

船の数だけツアーがあり、施設や食事が異なる上、ハロン湾内での訪問先も微妙に異なる。船の設備を説明されてもピンとこないし、食事は食べてみないと分からない。サイトには宣伝文句しか書いていないのだ。客観的な基準は訪問先しかない。ハロン湾関連の旅行ブログをいくつか見て、行きたい場所をリストアップした。

僕が行きたかった所はマイナーな組み合わせだったらしく、調べた限りでは1隻に絞れた。その船を自動的に選んだのだが、実際に乗船してみると、客の平均年齢が高めの落ち着いた船で良かった。航海中に他の船を見ると、クラブ系音楽にレーザー光線というパリピ専用船みたいなのもあり、クルーズにおける船選びは重要そうである。

訪問先の一つがブンビエン村という、海上にある漁村である。浮き桟橋に家や学校を建て、庭先のような海上で何やら養殖をしている。

海上漁村の案内所にはベトナム共産党のプロパガンダもあった。このブンビエン村のために本土に文化的で立派な集落を作ったらしい。ガイドさんいわく、その集落に行かなかった村民が未だに海上生活を送っているとのこと。

なるほど。しかし、こういうのは眉唾である。

スラムのツアーに参加してコース外の家に紛れ込んだらホームシアター完備だったとか、山奥の先住民の集落には近くの町からバイクで出勤してくるとか、真偽はともかく、よく聞く話だ。

陸上ブンビエン村が何処にあるのか定かではないが、ゆっくりしたクルーズ船でも1~2時間の距離だろうから、海上ブンビエン村までスピードボートで通勤も可能だろう。

つまり養殖場の作業員待機所が海上にあるだけではないか。

そんな疑問は口に出さず、海上漁村を手漕ぎボートに乗って案内してもらった。

村に行ったのは夕方だったのだが、ちょうどイカ釣り漁船が出港準備中だった。かなりラッキーなタイミングである。

イカは夜間にライトを点灯して釣るものだろうから、出漁の準備は夕方にするのだろう。しかも、こちらもアポなしでフラッと立ち寄ったわけでもない。全くの芝居ではないにしても、多少の仕込みがあってもおかしくない。

つまりイカ釣り船の基地が海上にあるだけではないか。

そんな疑問は口に出さず、イカ釣り船を見て興奮していた。

変な疑いは持たず、これで満足すべきだろう。実際、かなり楽しめたのだ。しかも手漕ぎボート代はクルーズ費用に入っていたのでボッタクリは発生せず、水上マーケットで土産物を売りつけられることもなかった。東南アジアの観光地で遭遇しがちなストレスとは無縁だった。

人生あまり邪推はせず、素直に楽しもう。

こう思わされている時点で、既に騙されているのかもしれないが。

ねんがじょう

ここ数年、受け取る年賀状の枚数を基準として自分の価値を数値化し、最大化する取り組みを続けていた。それも限界を迎えつつあるのかもしれない。

基本的に年末年始は仕事になるのだが、今年は曜日の関係で4〜6日程度の休みが取れそうだった。長い休みを無駄にするのはもったいない。

休みは未確定だったが、1月1日出発でアモイ行きの航空券を取った。かなり確実な見込み、と言うやつである。確信犯とも言うが。

しかし世の中そんなに上手く行くはずもなく、航空券を取った翌週、12月に深圳出張の予定が入ってしまった。僕の手際が良すぎるのか、僕の会社の手際が悪すぎるのか。

世間で言われる通り、中国はキャッシュレス社会だ。

スマホのアプリでサクッと支払と受取ができる。深圳で会った中国人スタッフいわく、半年以上、現金を持ったことがないらしい。中国は偽札が多く、リスク回避の側面からも好ましいとのこと。

アプリは銀行口座とリンクしており、キャッシュレスを推進する政府の側でも、取引の可視化を進め、税金の取りはぐれを減らせるメリットがあるのだろう。

プライバシーに関わる懸念はあるが、便利さという意味では最強である。

一方、現金を維持する社会的なコストも削減できる筈だ。

原材料となる紙や金属の調達費用、偽造防止技術を取り入れた印刷などに関わる制作費用、物理的な移動やATMなどの流通費用、それに諸々の管理費用、最後に廃棄費用。現金そのものの価値は社会的・経済的に合意されているが、その合意の裏側では現金を維持するために膨大なコストがかかっている。

アナログな制度は金がかかる。

いまやIT社会なのだから、リスク分析をふまえた上で、現行制度を再検討する頃合いなのかもしれない。現時点で何も問題ないからと言って、現状維持で良いとは限らないのだ。常にプロセスを見直し、最適化していく必要がある。

僕の年賀状も同じではないだろうか。

年末になると郵便局はアルバイト募集をしているし、職員への過剰な販売ノルマ疑惑もある。日本郵便は本当に年賀状で儲かっているのだろうか。実質的には無意味とも言える一時的な高需要を満たすために、どれだけの経費を費やしているのか。輸送実績と売上を嵩上げする手段になってはいないだろうか。

年賀状はスマホのアプリでサクッと発送と受取ができれば良い。来年は年賀状をペーパーレス化する事を考えてみよう。

ただし葉書をペーパーレス化したら、それは単なる電子メールではないかという合理的な疑いは残るし、そもそも年賀状を出さなかった時代に逆戻りである。以前に指摘した通り、年賀状とはギブ・アンド・テイクであり、ペーパーレス化によって僕自身の価値を下げてしまう可能性が高い。

いかにペーパーレス化のリスクをヘッジするか。今年一年かけて、この問題を解決する必要がある。