ちちぶのおもいで

数年前、知り合いのオッサンと秩父に行くような話になったが、なんとなくウヤムヤにしたことがあった。川下りができる渓流はあるものの、それは荒川であり、田園風景といっても、それは埼玉県である。あまり食指が動かなかった。

移動に制約の多い状況下、今年は箱根に行った。帰りの小田原駅で東海道線の通勤電車を見たとたん現実に引き戻されてしまうのが欠点ではあるが (仮称:小田原の悲劇) 、かなり満足できた。旧型の登山電車も撮影できたし。

神奈川県で満足できるなら、埼玉県でも満足できる筈である。登山電車を眺めるだけだった箱根よりも、渓流下りに加え、SLも運行されている秩父の方が楽しめるのではないだろうか。夏休み期間中は混みそうなので避けるとして、その直前には梅雨が明けていることを期待して宿の予約を取った。

期待通り、旅行前に梅雨が明けた。夏である。

まずは横浜から東海道線に乗って熊谷に向かうことにした。熊谷でSLに乗り換え、終点の三峰口へ向かう。三峰口駅にはSLの整備を見学できる公園がある。撮影には最適の快晴だった。

しかし暑い。とにかく暑い。日差しも強い。

関東で猛暑の場所と言えば、館林や前橋とならんで熊谷である。熊谷から秩父まで来ると、多少なりとも標高は上がっているが、それでも山の中ではない。むしろ関東平野の隅の方と捉えるべきで、結局かなり暑い。あとで調べてみると、滞在中の秩父の最高気温は34度もあった。最高気温35度だった熊谷と大差ない数値である。

翌日も快晴で、長瀞で渓流下りをした。この日もジリジリと暑いが、さすがに川面には涼しい風が流れていた。しかし船に乗っている時間は15分程度しかない。あとはカンカン照りの関東平野である。

山に行けば涼しいだろうか。ちょっと遠いが、三峰神社までバスで行ってみることにした。標高が約1100mなので多少は涼しく、時折、心地よい風も吹く。

それでも秩父は秩父だった。歩いていると大量に汗をかくし、強烈な日差しの中、駐車場で帰りのバスを待っているだけで暑い。バスはCOVID-19対策で換気が徹底されており、冷房の効きが悪い。そこそこ混んでいるし。

旅の目的の一部は写真撮影であり、晴天について文句を言う筋合いはない。仮に秩父あたりで天気が悪かったら、何も見ないで帰ってしまいそうだ。

そうは言っても、ここまで暑いのは堪える。梅雨明け直後であり、ジリジリと暑いのには体が慣れていない。秩父に田園風景が広がっていると言っても、そこは開発の進んだ関東平野であり、そうそう都合のいい場所に木陰があるわけではない。

今回の旅行時、秩父では飲食店でビールが飲めた。そうなると昼前からでもキンキンに冷えたビールに逃げるしかない。昔、夏休み中は清涼飲料水を飲みすぎるなと学校で指導されていた気がするが、今は酒でさえも自由に飲める。オッサンで良かった。

秩父で2日を過ごし、自宅に戻った。帰りは小田原の悲劇を避けるため、西武特急に乗って池袋経由にした。これなら都心までJRの通勤車両を見なくて済み、旅の余韻を長く楽しめる。

そんなに歩き回ったわけではないが、帰宅すると猛暑の影響で体力を消耗していた。しかもビールを飲み過ぎたせいか、胃腸の調子が悪い。

弱りながらも思い返すと、宿の予約をしたのは4月下旬だった。風薫る新緑の季節である。冬の寒さを脱し、楽観的な希望に満ちていた。

その時は想像すらしなかったが、秩父の夏は過酷だった。これこそ秩父の悲劇である。

旅のしおり:秩父

1日目

横浜 (東海道線・高崎線) >> 熊谷
熊谷 (SLパレオエクスプレス) >> 三峰口

SL転車台

三峰口 (秩父鉄道) >> 秩父

宿泊:新木鉱泉

1日目Tips
・パレオエクスプレスは途中で何度か普通列車に抜かれる。かなり必死で走っている磐越西線のSLからすると、ちょっとユルい感じ。乗客には乗務員の苦労が分からないものだけど。
・三峰口で転車台が動くのは1330-1340頃。それまでは整備風景を見られる。

2日目

秩父 (秩父鉄道) >> 長瀞

渓流下り

長瀞 (秩父鉄道) >> 御花畑
西武秩父駅前 (バス) >> 三峰神社

三峯神社

三峰神社 (バス) >> 西武秩父駅前

餃子菜苑

西武秩父 (特急ちちぶ) >> 西武池袋
池袋 (湘南新宿ライン・東海道線) >> 横浜

2日目Tips
・三峰神社まではバス。所要時間が長いので、座れないと過酷である。早目に乗るしかないが、始発の停留所でも5分くらい前にならないと乗せてくれない。
・最後に秩父の餃子屋さんでビール。餃子は野菜多めで美味しく、ビールは大瓶。気風の良いおばあちゃんが切り盛りしていた。

旅のしおり:礼文島

旅のしおり:礼文島

記載の時刻は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 1035 (ANA 571) >> 稚内 1225

稚内空港 1235 (宗谷バス) >> フェリーターミナル 1310

稚内港 1445 (ハートランドフェリー) >> 礼文島・香深港 1640

宿泊:花れぶん

1日目 Tips
・ピーク時の礼文島は宿泊料が高い。普通に営業できるのは一年の半分くらいで、花のシーズンは更に短い。そもそも離島は物価が高そうだし、そういう価格設定にならざるを得ないのだろう。普通のホテルに高い料金を払っても面白くないので、あえて最も良さそうな宿を予約。部屋は広くて快適、なによりも料理が美味しい。素晴らしい。

2日目

レンタカーで礼文島周遊

2日目 Tips
・ネットでレンタカー予約できないと思ったら、どうやらシステム的に切り離されているようで、現地の営業所に電話して予約。最初は2日目しか空きがなかったが、直前に電話したら3日目の午前まで借りられた。どうしても手配がつかなければ、稚内で車を借りて、フェリーで持ち込みもありかも (?)
・運転はキライなので、車を借りるかは再び悩んだ。トレッキングとか、サイクリングしている人も多そうなので。とはいえ、決して小さな島ではないし、アップダウンも多い。撮影メインの短期滞在なら車は非常に便利。定期観光バス、もしくは路線バスと徒歩でも回れそうなのだが、バスのダイヤと青空のタイミングをあわせるのは至難の業だと思う。北国の島とはいえ、さすがに7月は晴れれば暑い。しかも僕の日常は運動とは程遠い。

3日目

レンタカーで礼文島周遊

礼文島 1325 (ハートランドフェリー) >> 稚内 1615

稚内 1744 (JR特急・宗谷) >> 札幌 2257

3日目 Tips
・稚内から札幌まで特急列車で5時間ほど。車内販売も自販機もない。稚内駅にセイコマがあるので、乗車前に買い物が必要。
・稚内発の宗谷本線は進行方向右側の方が景色いいみたい。
・中島みゆきを聴きながら北海道を旅したいと思い、特急乗車前にiTunesでアルバムを購入。しかし列車に乗ってからイヤホンを忘れたことに気付く。

4日目

札幌 0550 (JR快速・エアポート 50) >> 新千歳 0628

新千歳 0730 (ANA 050) >> 羽田 0905

4日目 Tips
・謎の札幌宿泊について。フェリーが夏ダイヤであれば、JAL系列のHACを利用して利尻空港経由 (札幌・丘珠空港ゆき。新千歳まで移動が必要)、またはANA利用の稚内空港経由 (新千歳空港ゆき) で当日中に羽田まで戻れたと思う。今回はCOVID-19の影響でフェリーが春ダイヤだったので、利尻島では空港への路線バスに接続せず (タクシーは予約できず)、稚内空港も間に合わなそうで見送り。宗谷本線に乗ってみたかったのもあるけれど。

稚内の記憶

利尻島には空港があり、札幌 (ANA新千歳、JAL丘珠) から定期便があるが、一般的に利尻島・礼文島へのゲートウェイは稚内だろう。ここからフェリーで島に向かうことになる。

稚内は日本最北の町である。最寄りの大都市は旭川だが、直線距離で225キロほど離れる。かたや、サハリン (樺太) の最大都市、ユジノサハリンスクまでは190キロしかない。

2017年にウラジオストクへ行ったのだが、帰国後、にわかに僕の中でロシアブームが沸き起こった。シベリア鉄道の全線乗車は気が遠くなりそうでギブアップしたが、サハリンにはサハリン鉄道というのがあるらしい。全線を往復しても2〜3日といったところ。その当時、稚内から運航されていた国際フェリーでサハリンに行こうと検討していたのは内緒である。

今回は稚内で乗り継ぎ時間があり、稚内駅周辺を散策することができた。

稚内駅の前が稚内港である。駅北側の埠頭には、北防波堤ドームという不思議な堤防があった。昔の樺太航路の名残だそうである。

稚内発着のサハリン国際フェリーは2018年が最後だったらしい。僕のロシアブームは過ぎ去って久しいが、稚内から船でサハリンに向かう日は来るのだろうか。

れぶんとうのおもいで

北海道の緊急事態宣言のため、6月の礼文島訪問は諦めた。その時点ではマトモな決断だと思ったが、理性が欲望に敗れがちなのが僕である。

どうしても離島の美しい風景と高山植物の花々、それに礼文島名産のバフンウニが諦めきれない。

礼文島の代替として釧路へ行ったにも関わらず、毎日のように礼文島の10日間天気予報をチェックしていた。緊急事態宣言が解除された後、7月上旬の週末に晴れマークが連続していた。

なんやかんやで10年以上も行けていない礼文島である。人出の少なさを考えると、今年が最初で最後の機会かもしれない。7月上旬であれば、まだ花も残っているのではないか。諦めの悪いオッサンは少し悩んだ後、思い切って予約することにした。出発の一週間前である。

ANAポイントがあったので、それを利用して稚内までの航空券を予約。マイル使用の特典航空券ではないので、飛行機さえ空いていれば問題ない。

さらに、稚内〜礼文島のフェリー指定席も、礼文島で泊まりたかった宿も、礼文島内のレンタカーも、最終的には全て予約できた。6月に挫折した計画と大して変わらないので、あまり悩む必要はない。

乗り継ぎの関係で、帰りのルートが稚内・札幌経由になってしまった。それでも、稚内から札幌までのJR特急には割引チケットが残っており、新千歳から羽田に戻る飛行機はマイレージで特典航空券が取れた。

ちょうど会社の仕事にも余裕があり、無理をしなくても1.5日ほど休めそうだった。しかも7月に入っているので、夏休みでもある。

「島に来い」と礼文島の神様が言っているのではないか。そう思うことにした。

予約完了後、直前になって曇りが優勢な天気予報となってしまった。少なくとも雨は降らなそうなので、高山植物を見に行くのは問題ないだろう。バフンウニもシーズンに入っている筈である。ここまで来たら行くしかない。

1日目、稚内に着くと曇天だった。空港からフェリーターミナルに向かうバスで、隣席のオッサンがガイドブックを読んでおり、少々あせる。礼文島までのルートは6月計画の時点で調べておいたのだが、あまりも急な旅となったので、島自体については下調べせずに来てしまった。

幸いにも、フェリー会社作成のガイド冊子と、礼文町立・船泊小学校の生徒が作った手作りガイドを貰うことができた。これだけあれば、何とかなるはずである。

礼文島までの航海中、船上から利尻島の利尻富士が見えた。雲が出ていたが、山の頂まで辛うじて見渡せた。幸先がいいのではないだろうか。利尻島には夕方に着いた。

日の出が午前3時台と早いのだが、それでも朝焼けと日の出をチェック。しっかり曇っていた。ちょっと暗い気持ちになる。この時点の天気予報では、2日目が曇り、3日目が晴れである。

朝食の時間にあわせて起きなおし、礼文島滞在が実質的にスタート。まずはレンタカーの借り出しに向かった。相変わらず空には厚い雲が広がっている。

風景が美しい場所は後回しにして、高山植物を見に出かけた。しばらくトレッキングコースを歩いていると、霧が上がってきている。その奥には青空が見えた。

しばらく待つと晴れるのではないか。

トレッキングコースで高山植物の花々を撮影しているうちに、島の西側の海岸が見渡せるようになった。素晴らしい。

車に戻って、島をまわることにした。行きたい場所の目星は付けておいたので、昼食をパスして島を走る。僕が行きたかった所は島の西側に多くあり、概ね晴れていた。まだ新緑がまぶしく、花も残っている。素晴らしい。

一方で島の東側は午後になっても雲が多かった。島の東側海岸から利尻島が見える場所がいくつかあるのだが、利尻富士は雲の中だった。

夕方になって雲があがり、ようやく利尻富士を見渡せるようになった。素晴らしい。

欲を言えばきりがないが、非常に満足できた2日目だった。こういう夜はビールがうまい。

3日目も朝は曇りだった。昼過ぎのフェリーで帰るので、午前中いっぱい車を借りていた。この島では澄海岬が最も印象的だったので、もう一度、行ってみることにした。昨日よりは雲が多いが、この日も西側の海岸は晴れ。撮影は十分に済ませたので、心ゆくまで風景を眺めていた。やっぱり素晴らしい。

正午前にレンタカー会社へ戻って車を返却。島の東側は天気が悪くなる一方のようだが、あとは帰るだけなので問題ない。最後にフェリーターミナルで、バフンウニ丼とビールで乾杯。

帰りのフェリーは利尻島経由だった。間近で利尻富士が見えるかと期待していたが、残念ながら雲の中だった。

島の天気は予報通りというわけではなかったが、奇跡的なタイミングで島に来られた。諦めずに機会を探し、思い切って実行したのが良かったのだろう。

心残りは船泊小学校の生徒が推薦していた、昆布ソフトクリームを食べ損ねたことだけである。礼文産の利尻昆布を買ってきたので、それを噛りながらアイスを食べれば代替できるのではないだろうか。

やっぱり礼文島の神様が「島に来い」と言っていた。