きたとうほくのおもいで

今年の冬は、山形の蔵王で樹氷、北海道のオホーツク海沿岸で流氷を満喫したが、やや心残りだったのが北東北である。正月休みに一泊だけ青森の酸ヶ湯温泉に行ったが、もうちょっと東北の冬を楽しみたい。冬の名残に、前々から気になっていた、岩手県花巻の鉛温泉に行ってみることにした。

ちょうどCOVID-19が落ち着きを見せ始めた時期だった。観光客が戻り始めたら、混んだ温泉が苦手な僕には難関になるであろう、黄金崎不老ふ死温泉にも改めて行っておきたい。

4月上旬に休みをとって、冬の締めくくりとして北東北をまわることにした。

ところで、オッサンになってから気圧の変化に対応できず、台風が来ると頭痛に悩まされている。季節の変わり目も苦手になってしまった。適応力が落ちたと言うか、自律神経の調和に難があるようだ。

今年の関東は3月に入って急に暖かい日が続いたり、かと思うと真冬のように寒くなったりと、寒暖の差が激しかった。

オッサンはオシャレではないせいか、基本的な防寒をダウン1着で済ませている。しかも、旅行先の週間天気予報は何度もチェックするが、自宅周辺の天気予報は基本的に見ない。暖かいのにダウンを着続け、数日後に懲りて春物ジャケットを出したら寒くて凍えるなど、寒暖差を自ら助長する日々が続いた。しかも数年ぶりに花粉症を発症してしまった。

おかげで3月末には自律神経の失調に起因すると思われる、諸々の体調不良に悩まされることになった。いわゆる春バテである。

なんとも言えない不振に2週間も苦しんでいたら、4月上旬になって、わずかながら改善されてきた。いくらなんでも順応しつつあるのだろう。

3月16日の大地震による新幹線運休もあったが、そこで諦めないのが、僕が僕たる所以である。代替交通手段を確保し、北東北に向かった。

旅行初日の朝、青森空港に着くと気温は3度だった。空港周辺には雪も残っている。せっかく春に慣れたのに、冬に逆戻りである。冬の名残を求めて青森までやってきたのだ。計画時点の本望ではあるが、理想と現実が異なることは多い。

五能線に乗って、黄金崎不老ふ死温泉を目指す。海側に行くと雪はなくなったが、それでも気温は大して上がらない。1着きりのダウンを着てきたが、それでも寒いものは寒い。関東の暖かい気候に慣れてしまったので、寒さが堪える。

翌日は快晴。早朝に海岸の露天風呂へ行ったが極寒だった。風が強くて体感気温は更に低い。着てきたダウンも露天風呂では役に立たない。早々に退散して室内の温泉に向かったが、風邪をひきかけた可能性が高い。

朝食を食べてから再び五能線に乗り、秋田経由で花巻へ向かう。この日は昼前から気温がグングン上昇。到着時の花巻は23度になっていた。ちょっと汗ばむ位だ。

五能線での移動中から、全身に疲労感があった。喉も痛い。夜になって、くしゃみも出始める。本格的に風邪をひいてしまったのだろうか。普段なら葛根湯とプロポリスだが、旅行中ということもあり、秋田駅での待ち時間に風邪薬とユンケルを購入。

いまはCOVID-19時代なので、あちらこちらで検温されるが、幸いにも発熱の兆候はない。くしゃみは出るが、咳ではない。味覚もある。鉛温泉で1泊して自宅に帰り、葛根湯、プロポリス、のど薬、それに花粉症の薬を飲んで早々に寝た。これだけ飲めば間違いないだろう。

翌日、喉の痛みは少し改善していた。痛みがピンポイント化しており、風邪とは明らかに違う痛み方である。

鏡で見てみると、たしかに喉は腫れていない。念入りに見たところ、舌下の中心あたりに巨大な口内炎があった。のど薬は口内炎にも効くらしいが、原因が分かったので口内炎用の塗り薬に切り替え。

くしゃみも止まっていた。こちらは花粉症だったのだろう。低温の青森では花粉の飛散が少なく、薬なしでも無症状だったのが、高温の岩手は花粉が大量飛散していた可能性がある。完全に油断していた。こうなると全身の疲労感は湯あたりだったかもしれない。

あの日は一日で約20度の寒暖差があった。なんとか回復してきた自律神経は危機的な状態だったと思われる。結局、風邪ではなかったのだ。

オッサンになると季節の変わり目は過酷である。

いねのおもいで

人生そうそう上手くいくわけはない。と思う。蔵王北海道と好天が続いたので、天気が悪くても諦めのつく旅行先を探していた。大自然ではなく、街並みを眺めるのが良いだろう。友達オッサンが京都府北部の伊根という漁村を絶賛していたので、行ってみることにした。

伊根は海沿いに舟屋と呼ばれる家々が連なる街並みが有名で、その舟屋に泊まることができるとのこと。舟屋は漁師さんの家なので、一軒ずつ経営が異なる。横断的に空室を見つけられないのが面倒ではあるが、観光協会のサイトを起点に空室を探した。

入り江の奥まった場所にあって、しかもベッドのある宿に空室を見付けた。街の中心部からは離れていたけど、小さい街と聞いていたので、大して気にすることもなく予約。

雨でも諦めがつく前提で旅の計画を立てたが、やっぱり天気は気になってしまう。結局、毎日のように週間予報をチェック。

新横浜から東海道新幹線で旅に出た。京都で山陰線の特急に乗り換え、そのまま京都丹後鉄道の宮津まで。宮津からバスに乗り換えて更に1時間、伊根に向かった。かなり遠い。

それでも横浜を早朝に出たおかげで早目に到着し、昼食がてら伊根の街をブラブラする。

チェックイン可能な時間になり、歩いて宿に向かった。それにしても宿が遠い。たしかに小さな街ではあるが、伊根湾の海岸線に沿って街が作られており、妙に細長い。日本海からの風が当たらないところに集落を作ったそうで、建物がない一角もあったりして更に遠く感じる。結局、街の中心部から片道2キロほどだった。

こうなると切実な問題は夕食だろう。舟屋は一軒貸しが基本なせいか、いわゆる素泊まりが多いようだ。僕が泊まった所も同じで、レストランに予約を入れてもらっていたのだが、徒歩で片道25分ほど。サバイバルキャンプに来たわけでもないのに、食事の為に往復で約1時間も歩かなければならない。この日が雨だったらと思うと、恐怖でしかない。

一方、宿そのものは素晴らしい。湾曲した入り江になっている地形のおかげで、大きな窓からは舟屋の街並みを楽しめる。のんべんだらりと座って街を眺める。窓からの景色は伊根でもトップレベルではないだろうか。

素晴らしい景色を満喫できたが、バス利用者にはハードルの高い宿だった。街並みを眺めるだけなら雨でも諦めがつくと思っていたが、雨天だったら別の意味で後悔が残っただろう。人生そこそこ上手く行っているようだ。

何も知らないが故に選べた良い宿だったが、何も知らないが故に選んでしまった宿でもある。その気になれば何でも調べられる時代だが、知らないというのも力である。

旅の記録:伊根

記載の時刻は訪問時のダイヤです。

1日目

新横浜 0627 (のぞみ273) >> 京都 0821
京都 0838 (はしだて1) >> 宮津 1033
宮津 1047 (バス) >> 伊根 1157

海上タクシーで伊根湾めぐり
舟屋見学

宿泊:舟屋の宿まるいち

夕食:舟屋日和 海宮

1日目Tips
・伊根にはコンビニがないと聞いてはいたが、商店も少ない。唯一と思われる (?) 酒屋は閉まっていた。ビールの調達に失敗。

2日目

伊根郵便局前 1030 (バス) >> 天橋立元伊勢籠神社 1105

・天橋立を歩いてみたが、松林の海岸を歩いているだけである。地上からだと日本三景な感じはない。
・天橋立の智恩寺山門前で「知恵の餅」を食べた。軒先に座って山門を見ながら餅を食べていると、ちょっと賢くなった気がする。
天橋立ビューランドから天橋立を見る。上から見れば確かに日本三景である。

天橋立 1347 (はしだて 4) >> 福知山 1433
福知山 1443 (こうのとり18) >> 新大阪 1628
新大阪 1651 (のぞみ416) >> 新横浜 1902

2日目Tips
・COVID-19による旅客減少の影響で、はしだて4号は福知山〜京都間が運休だった。なにも考えずにチケットを取ったところ、宝塚・大阪を回るルートになった。兵庫県と大阪府を通るので、30分くらい遠回り。当然、料金は高い。
・結果的に新大阪駅で蓬莱の豚まんを買えた。京都駅伊勢丹デパ地下の老舗料亭おばんざい弁当を逃したとも言えるが。

旅のしおり:流氷

記載の時刻は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 (ANA375) 1035 >> 紋別 1220
紋別空港 (無料バス) 1235 >> 海洋交流館・ガリンコ乗場 1243

・1330 ガリンコ号
オホーツクタワー
アザラシ餌やり
・1615 ガリンコ号サンセット

ガリンコ乗場 1800 (バス) >> 紋別バスターミナル 1815

宿泊:ホテルオホーツクパレス

夕食:海鮮遊食Rin

1日目Tips
・ガリンコ号のダイヤにあわせて、紋別市内と船着場を結ぶバスが運行されているので便利。
・2日目も含め、時間帯を変えて3回もガリンコ号に乗った。これではガリガリ君である。やり過ぎかと思ったが、4回乗船という強者も見かけた。
・混んでいなかったので、アザラシ餌やりに参加。芸をしたアザラシにホッケをあげると、スルッと飲み込むのである。この夜、ホッケを食べたが、僕はビール付きである。

2日目

紋別バスターミナル 0515 (バス) >> ガリンコ乗場 0530

・0600 ガリンコ号サンライズ

ガリンコ乗場 0720 (バス) >> 紋別バスターミナル 0735

朝食:出塚水産

オホーツクパレスホテル 0950 (ひがし北海道エクスプレス) >> 網走おーろらターミナル 1245

・1400 >> 1230 オーロラ号
流氷硝子館

夕食:中鮨

網走バスターミナル (空港バス) >> 女満別空港
女満別 1905 (ANA 4780/AirDo) >> 羽田 2100

2日目Tips
・朝食は紋別港にある出塚水産で揚げたて蒲鉾を買い食い。散歩がてら丁度いい。朝ビールの欲望に耐えた。エライ。
・バスが網走に早く着いたので、なりゆきで予約よりも1便前のオーロラ号に変更。
・オーロラ号からはオジロワシを見る事ができた。船の音で逃げてしまうのだが、なんとか望遠レンズなしで間にあった。
・時間が余ったので、砕氷船の中から見つけた流氷硝子館へ。ちょっと感じのいいガラス工芸品と、ちょっと感じのいいカフェ。喫茶店に行くのは年に数回、馬鹿の一つ覚えのようにエスプレッソしか頼まないオッサンには似合わない。
・僕の勘違いにより店を早めに開けて頂いて、網走バスターミナルに近い「中鮨」という寿司屋さんへ。ありがたいが申し訳ない。関東にはない寿司ネタがあって面白い。
・ANAマイレージを使い、AirDo運航便に初めて搭乗。昨年のStarFlyerと同じパターン。ウイングレットがカワイイが、エコノミー席はエコノミー席である。

砕氷船の記憶

流氷を見に行く砕氷船は紋別と網走にあり (羅臼にもあるらしいが、公共交通だとアクセスが悪そうでパス)、どちらが良いのかは悩ましい。

今回は紋別をメインにした。

地理的に北側にある紋別のほうがアムール川に近そうで、流氷遭遇率は高そうな気がするが、網走の方が東に張り出している。風向などの要素もあるので、どちらが良いとは一概には言えないのではないだろうか。どこかで見かけたデータによると、網走のほうが陸上からの流氷観測数は多いとか (?)

今回は体感的には大差なかった。どちらも1時間程度の航海で、沖合の流氷帯まで片道15〜20分の航海が必要。ゆえに流氷の中をウロウロするのは20分ちょっと。

事象としては海の中に氷塊があるだけである。それだけなら紋別も網走も大差ない。筈である。網走は晴れると知床まで見渡せるので、晴れた日なら網走が良いだろう。オジロワシも見られたし。

夕方のサンセット・クルーズは紋別、網走どちらにもあるが、早朝のサンライズ・クルーズは紋別のみだった。太陽は東から昇るので、オホーツク海沿岸ではサンライズの方がドラマチックだ。と思う。

紋別の方が船は小型で乗客も少なく、じっくり楽しめる気がする。僕には網走の船は大きすぎというか、乗客が多すぎた。

どちらにしても沿岸近くまで流氷が来ていることに加えて、天気が良いことが条件になる。今年はCOVID-19の影響で航空券を無料キャンセルでき、直前に変更したフライトにも空席があった (羽田〜紋別線は毎日1往復しかない。そもそも紋別空港自体が1日に1往復しかないのだ)。紋別のホテルにも空きがあった。

通常であれば、そういうわけにはいかないだろう。当日の天気が悪くても諦める覚悟で航空券を取る必要があると思われる。そこまで考えると、飲食店や観光施設が多い網走の方が無難かもしれない。

結局、悩ましいままである。