べとなむのおもいで

月末・月初は祝日に関わらず仕事なのだが、それでも今年のGWは5連休になりそうだった。以前は5日あればヨーロッパやアメリカに行けると思っていたのだが、COVID-19以降の航空券相場は高めに推移しており、抑制が必要である。新時代のニューノーマルにあわせた旅の計画を立ててみよう。

抑制がテーマとなれば、近場を探すしかない。アジアの地図を眺めていると、フィリピンには行ったことがないと気付いた。僕にとってのフィリピンとは、ヨーロッパ路線におけるシベリア、もしくは北米路線におけるアラスカ沖ベーリング海と同じポジションである。すなわち長距離線の飛行機内で、飽きという苦痛に耐えながら時間つぶしをする場所だ。東南アジア路線で飽きを感じ始める場所が目的地であれば、そこそこ近い旅行先ということになろう。抑制されたニューノーマルな目的地と言って差し支えない筈である。

フィリピンについて改めて調べたところ、エルニドの島々が美しいらしい。エルニドに行くにはマニラ空港での悪名高い乗り継ぎが不可避だが、フィリピン国内線はフライトが多く、時間に余裕を持った旅程を組めば何とかなりそうである。帰路は乗り継ぎ待ちを兼ねてマニラで時間を取ることにした。荷物や移動、安全対策を考えると、半日ほど車をチャーターして、国内線の到着ターミナルでピックアップしてもらい、マニラ観光の後、最終的に国際線の出発ターミナルまで送ってもらうのが良さそうだ。

しかし、まだ一度も行ったことのないマニラだが、これといって魅力的な場所は見付けられなかった。たしかにマニラ旧市街には興味があったのだが、心惹かれるまでには至らず。結局、車の半日チャーター料金に見合うようなマニラ計画は作れなかった。

更に調べたところ、エルニドで現地ボートツアーに参加すると、島での乗下船は泳がないといけないらしい。多少なら泳げるし、荷物は防水バックを買えば良いのだが、普段の生活でも転ぶとか漏らすとかが得意な僕である。ボートツアーに持ち込むデジカメの取り扱いに不安が生じた。というか、不安しかなかった。

既に航空券は予約済だったのだが、ここまで考えると急激に熱意が下がってしまった。このテンションの低さでフィリピンに行っても、ロクな事にならないだろう。

どうしたものかとインターネットを見ていたところ、ベトナム少数民族の村にあるホテルが目に留まった。いわゆる高原リゾートである。山岳地帯の田舎で棚田を眺めながらトレッキングが出来るらしい。しかも5月上旬は田植えの時期で、秋の収穫期と並ぶベストシーズンとのこと。かなり良さそうではないか。往復ともJAL便の非常口席が空いていたこともあり、ほぼ即決で予定変更した。

かれこれ3年半ぶりのベトナムである。羽田からの深夜便で、早朝のホーチミンシティに到着した。朦朧としたまま入国審査を通り抜け、速攻でベトナム入国。

ホーチミンシティからベトナム航空国内線でハノイまで北上するのだが、祝日だったせいか、空港はガラガラだった。ダメもとで1本早いフライトに変えてもらえないか聞いたところ、すんなりOKしてくれた。予想通り飛行機もガラガラ、しかも機体はワイドボディの新鋭機Airbus A350である。ゆっくりと睡眠の続きを取れた。

そのまま予定より1時間ほど早くハノイに到着した。乗客が少なければ、荷物が出てくるのも早い。気がする。ホーチミンシティ離陸前にホテルへメールを出して、送迎車を早めてもらうよう依頼しておいたが、ちゃんと来てくれていた。

ここから先は半ば諦めていたのだが、ホテルに到着後、チェックイン手続きをして10分ほどロビーで待ったら、早くも客室に入れてくれた。こういう事が意外とあるので、料金が少し高い程度ならホテルの送迎サービスを利用し、ホテルが僕の到着時間を分かるようにしている。

部屋でシャワーを浴びて、まずはフォーを食べに行った。行列が出来る有名店に行ったのだが、11時頃に到着できたおかげで、待ち時間が少なくて済んだ。ホーチミンシティでフライトを早めたのが効いている。あとは例によって旧市街の市場を見に行き、夕方前にはブンチャーを食べに行って昼寝。

夕食は予約しておいたレストランに行った。オシャレな繊細系ベトナム料理の店だったが、フォーとブンチャーを食べ過ぎたせいか、その店では少量しか食べられなかった。これが唯一の失策で、それ以外は全てが怖くなるくらいスムーズな一日だった。こういう日もあるのだ。実際、旅行最終日には痛い目にあったのだが、それは先の話である。

ニューノーマルにあわせて旅行先を変えようと思い、フィリピンの美しい島を見に海へ行くつもりだったが、ベトナムの美しい棚田を見に高原を目指す事になった。マニラで車をチャーターして興味のない観光地を廻るくらいなら、スムーズにハノイで歩き廻る方が良かった。ハノイは3度目なので新鮮味はないが、ベトナム料理は好きだし、いつ見ても市場は楽しい。結局、旅に妙な目的を付随させようとすると、それに振り回されてしまうということなのだろう。行きたい所に行くのが自然であり、スムーズな結果になる。

所詮、僕は何とか世代ではなく、単なる昭和生まれのオッサンである。ニューノーマルを探し求めるのはやめ、慣れ親しんだノーマルに回帰しよう。それがどんなに古臭かろうと。

旅のしおり:屋久島

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 0625 (JAL641) >> 鹿児島 0815
鹿児島 0850 (JAL3741) >> 屋久島 0930

ツアー:白谷雲水峡半日トレッキング

宿泊:屋久島グリーンホテル

夕食:いその香り

1日目 Tips
・地魚がネタの寿司屋さん「いその香り」を見付け、速攻で予約。寿司屋さんの前に評判のよいホテルがあったので、そこに宿泊することにした。物事の順番的に逆な気もするが、これでいいのだ。

2日目

ツアー:白谷雲水峡半日トレッキング

屋久島・安房港 1300 (高速艇128) >> 鹿児島港南埠頭 1535

・鹿児島中央駅さつまち

鹿児島中央駅前バスターミナル 1730 (空港バス) >> 鹿児島空港 1810

鹿児島 1910 (JAL652) >> 羽田 2050

2日目 Tips
・鹿児島駅ビル屋上に観覧車があり、桜島を正面に見られる。快晴だったので乗車してみた。
・薩摩揚げ、かるかん、壺漬け、知覧茶を購入して帰京。できたての薩摩揚げが美味しい。

やくしまのおもいで

昔から春先は苦手なのだが、今年の春は気温変化と花粉症のせいで極めて不調だった。3月には現実逃避して旅行に出ようと思ったが、日程的に成立せず。その後は不調を誤魔化しつつ日々を過ごしていたが、どうにも煮詰まってしまった。

結局、GWまで持ち堪えられず、4月中旬に急きょ旅行へ行こうと思い立った。土曜は既に予定が詰まっており、会社を月曜に休んで、日曜からの一泊二日である。

旅行に行こうとは思ったものの、手段が目的化したパターンであり、どこに行くべきか思いつかない。雪景色には遅すぎるが、春というには少し早い。しばらくネットを探したところ、ちょうど立山の山開きだと気付いた。有名な雪の壁である。せっかくなので見てみたい。

しかし天気予報を見ると、どうも天気は悪いようだ。どの予報機関も「天気は周期的に変わる」と言っており、誰もが次の週末は悪いサイクルにあたると言っている。天気図を見ると、低気圧が日本海を発達しながら移動する想定である。行くべきか行かざるべきか。

グジグジ悩みつつ全国予報を見ると、どの予報機関も九州以西が晴天との見解だった。とくに南に行く方が良いらしい。前から興味があった屋久島への交通手段を調べてみると、行きは東京~鹿児島~屋久島、帰りは鹿児島~東京でマイレージ利用の無料航空券に空席があった。これは屋久島の神様が来いと言っているのだろう。

まずは航空券を確保したものの、そこから先は分からない。なんとなく知っていたのは「縄文杉」と「苔の森」である。縄文杉は丸一日のトレッキング行程のようで、今回はパス。苔の森は移動を含めて5時間くらいの行程らしい。路線バスは本数が少なすぎ、運転が嫌いなのでレンタカーを借りるのも躊躇い、結局はガイドツアーを申し込むことにした。これならホテルへ送迎してくれるので効率的な移動手段も確保でき、一石二鳥というやつである。

あとはホテル探しになるのだが、土地勘が全くないにも関わらず、ガイドツアーの送迎エリアの縛りがあるので難しい。たまたまネットで良さそうな寿司屋さんを見つけ、その店を地図で探すと、ちょうど前にホテルがあった。

諸々の手配が終わったのは出発の前々日だった。

当日は早朝に起きて、昼前には屋久島に到着。快晴ではあるが、里から見上げる山は黄砂で霞んでいる。低気圧は避けられたが、黄砂までは考えていなかった。訪ねるのは森なので、遠景の撮影はないはず。だと思う。

ホテルに荷物を置き、ガイドさんにピックアップしてもらって、苔の森がある白谷雲水峡へ。この森は江戸時代に人の手が入っているため、世界遺産エリアではないらしい。そのかわり、森と人の関わり、森の再生が良く分かる。さすがに月に35日も雨が降ると言われる屋久島だけあって、水が豊かな美しい森だった。

トレッキングを終え、夜は地魚を握ってくれる寿司屋さんへ。初めて聞く魚の寿司を食べ、地元の肴をアテに屋久島の焼酎を飲んで泥酔。

撮影のために同じ場所に何度も行きたがるのは悪い癖である。翌朝は二日酔いだったが早朝に起き、別のツアーで白谷雲水峡へ向かった。

結果的には2回行って良かった。初日は日中なので森の中に陽が当たっていたが、2日目は朝の風景である。徐々に明るくなり、柔らかい日差しが森に差し込んでくる。さらに美しい光景だった。ガイドさん曰く、雨の方が苔が湿って美しいらしいが、そこまでは求めるまい。

現地1泊の短い日程で屋久島まで行くのは勿体ないと思ったが、思い切って正解だった。森も寿司も満喫し、極めて満足できた。

やっぱり屋久島の神様が来いと言っていたようだ。