さんふらんしすこのおもいで

昨年、結婚にあたって業務連絡を行った結果、ドクターしんコロからお祝いを頂いた。お礼の連絡をするまで記憶の片隅に埋もれていたのだが、彼の娘さんに会いに行くと言って、実現しないまま時が過ぎていた。旅行を真剣に捉える僕であっても、記憶の片隅には到達が困難であり、次に埋蔵物を掘り起こす頃には更に数年が経過している可能性が高い。

キモいオッサンが来たと思われる前が、女の子を訪ねる頃合いだろう。カレンダーを見ていたら、サンクスギビングの週末に日米の祝日が重なっていた。子供の成長は早いので、手遅れにならないうちに行動する必要がある。早々にサンフランシスコへ旅立つことにした。

実質的な滞在初日はサンクスギビング当日だった。日本の元旦なみに休みとなる日だが、屋外なら何か出来るのではないだろうか。せっかくなのでレッドウッドの森に行ってみたいと思いリサーチしたところ、ミュアウッズ国定公園が営業していた。駐車場は予約制だが、スペース確保に成功。

更にリサーチを重ねたところ、国定公園の近くにビューポイントを見つけた。北カリフォルニアの美しい海岸線を見渡せる場所である。そして最後にゴールデンゲートブリッジを見に行った。ゴールデンゲートに着いたのが日没時間帯になり、赤い橋に夕日が当たる素晴らしい景色を楽しめた。

リサーチ通りの素晴らしい一日になった。

翌日はブラック・フライデーだ。クレジットカードを握りしめて、バーゲンセールに行く日である。僕はTUMIのスーツケースを昔から愛用している。ハードな使い方をしても壊れないのだが、さすがに使用期間10年は長すぎ、プラスチック部分の劣化による不具合が発生した。修理に出すか悩んだものの、日本だと修理費用が高そうだし、そもそも古すぎてパーツがあるか定かではない。致命的な故障には至っておらず、ガムテープで補修したまま使い続けていた。

この機会に新しいスーツケースを買い足そうと、僕もクレジットカードを握りしめ、サンフランシスコのダウンタウンへ連れて行ってもらった。西海岸の大都市なので大きな店舗があると思い込んでいたのだが、行ってみると意外に店が小さいし、ほとんどセール品もなかった。何のために西海岸まで来たのだろうかと、旅の主要目的は忘れ、絶望に襲われた。

ショックを受けている場合ではない。慌てて調べてもらったところ、近郊の街にアウトレット店舗があった。おっとり刀で駆けつけるが、アウトレットモールの手前3キロくらいの高速道路上から激しく渋滞していた。5車線くらいあるハイウェーにも関わらず、出口車線2レーンは実質的にストップ、残りの車線もロクに動かない恐ろしさである。このまま行ったところで駐車場は見つからないだろうし、帰りに駐車場から出るのも大変だろう。被害が少ないうちに、挫折することにした。

この日はリサーチの少なさが仇となり、何も成しえない一日となってしまった。

しかし諦めている場合ではない。アウトレットは最終日に再チャレンジさせてもらう事にした。ホリデーシーズンの週末だけあって渋滞していたが、そこそこスムーズにアウトレットモールまで辿り着けた。駐車場も混んでいたが、ほぼ待たずに空きスロットを発見。

満を持してTUMIアウトレット店舗に行くと、995ドルのスーツケースが半額になっていた。その横に前から欲しかった575ドルのバックパックが置いてあり、これも半額になっている。スーツケースを買うだけで約500ドルが節約できるので、実質290ドルのバックパックを買っても、まだ余りある。と思う。

バックパックを買うべきか悩んでいると、悩むくらいなら買えと言われた。自分では決めきれないまま、スーツケースとバックパックを持ってレジに向かった。気が付くとレジではバーコードの読み取りがなされており、言われるがままクレジットカードを差し出していた。

結果、僕はアウトレットで何を成して、何を成しえなかったのだろうか。

ここに至って、バックパックさえ買わなければ500ドル節約できた筈と後悔するのは、さすがに野暮だろう。理性的な判断としては、差し引き210ドルを節約し、必要さが曖昧なバックパック1個をゲットした、あたりではないだろうか。

しかし店で渡されたレシートを見たところ、You Saved $785と大きい字で書いてあった。

どう言う事だろうか。もしかすると、500ドルの節約が出来なかったと後悔している場合ですらないのかもしれない。

たしかに2つ合わせて1570ドルのスーツケースとバックパックを半額で買ったのだ。1570 x 50% = 785。数学的には正しい計算である。

先程までの心情的にはしっくりこないが、客観的かつ受け入れやすい論理である。僕の判断が間違っていたのだろう。理性ではなく、数学に従うべきなのだ。

さて数学的に50%オフなので、値引き後のスーツケースとバックパックは、節約額と同じ785ドルである。しかし忘れがちなカリフォルニア州消費税を払うと865ドル位になり、クレジットカードの請求書が来たところ、結果的に13万円ほどだった。

何かが間違っている気がする。

決めきれないままに散財した13万円。その結果が、半額のスーツケースと、必要さが曖昧なバックパック1個である。前者は百歩譲るとしても、後者は不要ではないだろうか。

後悔が始まった。

とにかく冷静に考えて行動すべきだった。州消費税のほか、円安の影響を考慮に入れるべきだったのである。すなわち数学理論に加え、経済理論も加味する必要があったのだ。

反省の為、改めて論理的に検討を重ねることにした。

購入したスーツケースとバックパックは現行モデルの廃盤カラーだが、そもそも僕は製品の耐久性に価値を見出している。長期に渡って使うものであり、最新オシャレである必要はない。すなわちデザイン上の違いに貨幣価値は見出だせない。

それを踏まえてTUMIの日本サイトを見たところ、色違いの現行品を日本で買うと合計27万円を超えるようだ。仮に27万円とすると、270,000 – 130,000 = 140,000となる。

実際の現行価格は27万円を超えるのだから、つまり14万円を超えるセービングと考えられる。すなわち日本円ベースでは半額以下であり、ドルベースでの数学理論を超越していた。経済理論を加味したところ、行動の正しさが補強されたのである。

なんとなくハッピーな気分になって、クレジットカード請求書をしまい込んだ。

今回の旅を通じ、旅行も買物も事前リサーチが重要なのは明らかだった。しかし常に完璧なリサーチを行えるとは限らないのが人生であり、ダメな時は流されるままに行動するしかない。そんな時でも論理的思考を重ねることで、異なる結論に辿り着ける。

理性的には、人生そんなに甘くない。と思う。

いずれ厳しい現実に向かい合う必要がある時は来るかもしれないが、それは後日のことである。当面は「コップに水は半分もある」のだ。

それでいいのだ。

旅のしおり:道央

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 0900 (JAL507) >> 新千歳 1030

新千歳空港 1106 (エアポート111) >> 小樽 1222

ルタオ

リタバー
伊勢鮨
Bar HATTA
BOTA

宿泊:ホテルノルド

1日目Tips
・寒いだけで雪の少ない11月の北海道は、まだスキーには早いせいか、直前にも関わらず土曜午前の羽田発・日曜夜の新千歳発でも特典航空券が取れた。
・リタバーで集合して、ニッカ水割りからスタート。スーパーニッカが意外に美味い。そしてBar HATTAとBOTAで昔のニッカを数杯ずつ。

2日目

小樽駅前 0900 (路線バス) >> 余市駅前十字街 0935

余市蒸溜所

余市 1231 (JR) >> 小樽 1255
小樽1319 (JR) >> 苗穂 1409

サッポロビール園

酒肴四季彩

札幌 1924 (エアポート194) >> 新千歳空港 2003

新千歳 2105 (JAL528) >> 羽田 2245

2日目Tips
・札幌市電に乗って、土曜日のバーテンダーが常連客から聞いてきた「酒肴四季彩」に行ってみた。おいしい地元の居酒屋といった風情の人気店。あまり聞いた事のない魚が多いので面白い。

おたるのおもいで

しばしば友人から笑われるが、僕は数軒の限られた飲食店で人生を完結できるようにしている。失敗したくないというのもあるが、むしろ快適に過ごせる場所が欲しい。店に迷惑をかけるつもりはないが、好き嫌いが多いので若干の食材調整をして欲しいとか、酒の銘柄指定が面倒だから任せたいとか、習慣化して場数をこなすことで、かゆい所の手が届いて欲しい。

バーに関しては「平日 (木曜)」「金曜」「土曜」と、ほぼ曜日まで固定で毎週3軒のバーをグルグルと廻っている。土曜日に行くバーのバーテンダー (仮称:土曜のバーテンダー) が余市蒸溜所に行くので、昨年11月に1回だけ土曜日を臨時休業するとの事である。

曜日固定と言っても、何かの縛りがあるわけではないので、たとえば金曜と土曜に行くバーを入れ替えることは可能である。と思う。

しかし人間とは習慣の生き物である。問題に対して理論的に何かできるからと言って、実際の行動が伴わない場合もある。最たるものが、朝食を食べた方が健康面で良いと分かっているのに、わずか十数分でも早く起きられない事だろう。根本にある問題をシリアスに捉えていないので、習慣に流されてしまうのかもしれない。

同様に、土曜のバーへ金曜に行くのは難しい。金曜の方が土曜よりも電車が混んでいるとか、土曜には知っている客が来ている可能性があるとか、その程度の理由でしかないのだけれど。行動に移せば容易な事でも、習慣に縛られ、ついつい踏み出せない。

それでも臨時休業は臨時休業である。店に行っても営業していないので、もはや習慣の奴隷になっているとは言え、僕自身が何とかするしかない。

そんな折、土曜のバーテンダーに小樽の飲食店を知っているか聞かれた。僕も数年前に余市蒸留所へ行っており、その時に行った寿司屋が気に入っていた。

そこから先は、ありがちな酒場の話だった。航空券やホテル手配などの話をしているうち、ついつい酔った勢いで、僕も小樽に行って途中から合流する話になっていた。

そんな旅行計画は実現しないのが世間相場である。理論的に何かできるからと言って、実際の行動が伴わない典型例だろう。

それでも僕は旅行をシリアスに捉えることにしている。たまたま羽田〜新千歳往復の特典航空券に空席があっただけなのだが。出ていく現金がホテル代1泊であれば、そこまでシリアスにならなくても、シリアスに捉えられる。と思う。

小樽には良いバーが数軒あるとかで、可能であれば3軒まわる予定にした。寿司屋でも酒を飲むので、合計4軒である。アルコール分解能力が落ち気味のオッサンとしては、理論的には可能だが、極めて野心的な計画だ。

寿司屋に行く前の食前酒を兼ねて、夕方に1軒目のバーで待ち合わせた。それまでは自由行動なので、土曜の昼までに小樽に着き、ルタオでチーズケーキでも食べよう。天気が良ければ、運河を見たり、小樽港を散策したい。

そんな軽い考えで小樽に向かったのだが、11月の北海道は冬だった。しかも今シーズン初の寒気とのことで、初雪が舞っていた。気温は到着時2度、しかも風速6メートルなので、体感ではマイナスのはずである。その数日前の関東は、44年ぶりに11月の夏日だったのだが。

それでも予想外の寒さに挫ける事はなかった。ルタオでランチとケーキを食べ、凍えながらも運河と小樽港を散策し、しかも夜は予定通り4軒で飲酒という破竹の勢いで小樽を満喫できた。

他の事はともかく、僕は旅行をシリアスに捉えることができる。そこに飲酒が加われば鉄壁である。やはり理論的に何かができるからと言っても、実際の行動が伴うか否かは、根本にある問題に対する認識によるのだ。やればできる (にもかかわらず、好きなことしかやらない) タイプの人間である。

そういえば小学生の時も似たようなことを言われていたが、自分自身の根底にある問題に対する認識によって、40年たっても変わっていなかった。