はこだてのおもいで

正月明けの三連休は、後生掛温泉でスノートレッキングをした。そもそも正月休みの代休を使って1月末頃の後生掛訪問を目指していたのだが、宿が改装工事で休業となるため、予定を早めたのだ。その三連休で満足できる筈だったが、天気が悪く、写真的にはイマイチな結果に終わってしまった。

つまり満足しきれていない上に、正月休みの代休が残っていた。大して考えるまでもなく、結論は一つしかない。

それでも1月は極めて多忙だったので、何も具体化せずに時が流れた。月末が近付いたところで、代休は4週間以内に取得という会社のルールを思い出した。急きょ休みを取ることにして、三連休を捻出した。ただし土曜日は予定が詰まっており、旅行としては日曜〜月曜の1泊2日で探す。

今年の冬は暖冬と言われたが、それでも冬は雪のあるところに行きたい。ゼロから予定をたてる時間はなく、写真も楽しめそうな場所として、数年前に行った奥入瀬渓流を再訪することにした。

さすがにオフシーズンなので、直前でもマイルを使った特典航空券に空席があった。行きは三沢空港から八戸に出て、送迎バスで奥入瀬へ向かう。ホテルの現地アクティビティを利用して、奥入瀬渓流の撮影。帰りは青森まで送迎バスに乗り、新青森から北海道新幹線で函館に向かう。函館の高級寿司店に寄り、店から函館空港へ直行して、最終便で羽田に帰る豪勢なプランを考えた。

この計画を思い付いた時点で出発の数日前である。早急に手配を済ませなくてはならない。深く考えることもなく、速攻で航空券をゲットした。そこでようやく、あまりにも直前すぎ、ホテルの予約を入れた時点でキャンセル料100%という驚愕の事実に気付く。

ホテルの予約を入れたら後戻りできない。念のために確認したところ、客室に空きはあるものの、送迎バス、アクティビティともに満席だった。残るはレンタカーしかないが、僕は車の運転がキライである。夏の北海道でしか運転したことがなく、雪道は未知の領域である。レンタカーにはスタッドレスタイヤが付いているらしいが、全知全能の神ではないだろう。

あまり悩む時間もなかったが、奥入瀬へ行くのは挫折することにした。しかし既に休みと航空券は取ってしまっている。そもそも代休取得できる最後の週末だし、マイルを使った航空券にキャンセル料やら払うのもどうかと思う。高級寿司屋さんを旅のメインと考え、函館周辺に泊まることにして、温泉地を探すことにした。

函館と言えば湯の川温泉だが、市街地なのでパスしたい。道南の地図を丹念に見ていたら、函館の外れに「ホテル恵風」という温泉宿を発見した。函館市内から東に向かい、津軽海峡の入口あたりの宿である。調べたところ送迎を依頼できるらしく、出発前日の午後に慌てて予約。

東京駅を8:20に出発する函館行き新幹線に乗るために、羽田空港7:35発の三沢行き飛行機に乗るという意味不明なことになったが、三沢~八戸~新青森〜新函館北斗と乗り継いで函館へ向かった。

青函トンネルを抜けると吹雪だった。函館駅前からホテルの送迎車に乗り、津軽海峡ぞいの道を進む。この旅では石川さゆりを聴きながら津軽海峡の冬景色を見ようと思っていたが、まさに物悲しいモノトーンの世界である。

しかしモノトーンだと分かるのも最初だけだった。宿に着いた頃には視界もきかないほどの猛吹雪である。風が強すぎて海鳥の気配もない。曲の想定よりも大幅に天気が悪い。

翌日は気温が上がって大雨となった。宿の前には灯台があり、少し歩くと漁港もあるらしく、何か撮影できないかと期待してミラーレス1眼カメラを持ってきたのだが、ほとんど意味がなかった。

宿から出発前、わずかに雨が止む瞬間があり、そのタイミングで灯台の撮影に行けた。積雪を乗り越えて撮影したが、強風で寒く、早々に退散した。あとはカメラをバッグから出さず、旅行中その1箇所で数カットだけ撮影という結果になった。結局、不満が残った後生掛よりも遥かに少ない撮影枚数で旅を終えた。

天候は運不運とは言うものの、撮影を前提にするのであれば、思い付きではダメだった。それでも荒々しい最果ての立地など、極めて満足できる宿に出会うことができた。夏は混みそうなので、晩秋から初冬を狙って再訪してみようかと思う。

良い宿を見つけられたことに満足すべきなのだろうが、流石に納得には至らない。 続く

旅のしおり:函館

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 0735 (JAL153) >> 三沢 0855

三沢空港 0910 (空港バス) >> 三沢駅 0926

三沢 0944 (青い森鉄道) >> 八戸 1004
八戸 1025 (はやぶさ5) >> 新青森 1052 – 1120 (はやぶさ7) >> 新函館北斗 1217
新函館北斗 1235 (JR北海道) >> 函館 1250

函館駅 1400頃 (送迎バス) >> ホテル 1520頃

宿泊:ホテル恵風

1日Tips
・全く無計画に選んだ宿だったが、なんとも素晴らしかった。日曜夜の宿泊者は3組6人、ゆっくり過ごせた。

2日目

ホテル 1000頃 (送迎バス) >> 函館駅 1120頃

昼食:ラッキーピエロ

函館市北方民族資料館

夕食:鮨処 木はら

函館 1920 (ANA 558) >> 羽田 2050

2日目Tips
・昼にラッキーピエロを食べると、17時からの寿司に影響が出る。
・寿司屋さんは函館市街と空港の間にあり、タクシーでショートカット可能。17時スタートなら混みだす前にテンポよく出してもらえるので、しっかり食べた上に3合くらい飲んで程よく最終便に間に合う。

ごしょうがけおんせんのおもいで

秋田県の後生掛温泉が大好きだ。初めて行ってから既に15年くらいになるが、冬場は人が少なくて特に良い。

昨年1月には地元の八幡平ビジターセンターが主催するスノーシュートレッキングに初めて参加した。雪に閉ざされた絶景を楽しむ事ができたが、天候はイマイチだった。なんとかリベンジすべく、昨秋のトレッキング予約開始にあわせ、今年1月でガイドさんと宿の予約を入れた。会社の休みありきの日程で2カ月も前に予約するので、あとは運を天に任せるしかない。

運を天に任せると言っても、実態としてはギャンブルに近い。旅行先の選定にはWeather Sparkというサイトで晴天率をチェックする事が多いが、このサイトによると冬の秋田県は15%程度の低さである。

一方で降水確率も意外に低くて30%くらい。もっとも1ミリ以下の降水はカウントしていないようなので、小雪が舞う日まで入れると、確率は遥かに高くなる可能性がある。晴れは狙えないにしても、せめて降雪が写真に写りこまないようにしたい。

ところで昨年12月からロクなことがない。年が変わったら急激に良いことが起きるかと思ったが、そんなに甘くはなかった。当日、去年と同じガイドさんに「写真を撮るなら晴れている時に来なきゃ」と軽口を叩かれてスタート。そんなことを端から言われてしまう天気である。

しばらくすると吹雪になった。昨年より確実に悪化している。晴れを期待できないのは分かっているが、吹雪でなくても良いだろう。

水蒸気が噴き出す沼を見下ろす丘に登った時が、一番の吹雪だった。せっかくの絶景なのに、丘の下から雪が舞い上がり、見通しがきかない。こういうのが日頃の行いの結果だとすると、僕はロクでもない人間なのだろう。

ありがちなことではあるが、宿に戻った時は晴れていた。別れ際にガイドさんから「3回目来ます?」と笑って聞かれた。

多くの旅館スタッフがスノーシューに参加したことを知っており、戻った時に「晴れて良かった」と言ってくれた。秋田人の優しさが心にしみるが、秋田の空は僕がロクな人間ではないと断じていた。

来年は3回目のチャレンジをしよう。僕の人間性の改善は難しいが、数をこなしさえすれば、いつかギャンブルに勝てる日は来るだろう。

旅の記録:北秋田

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

角館で夜の武家屋敷を見に行かなかった以外、昨年と実質的に同じ行程。マンネリなのでも、アイデア不足なのでもない。完成された様式美である。

1日目

羽田 0855 (ANA719) >> 大館能代 1005
大館能代空港 1020 (空港バス) >> 大館駅前 1113

花善

大館 1336 (花輪線) >> 鹿角花輪 1428
鹿角花輪 1435 (送迎バス) >> 後生掛温泉 1520

宿泊:後生掛温泉2泊

1日目Tips
・本来であれば、この日に「秋田比内や」に行きたかったのだが、羽田からのフライトが1時間ほど遅れ、バスが大館駅前に着いた時点で12時を過ぎていたので挫折。元々3日目の予定だった大館駅前の「花善」に行くことにした。出来たての鶏めしが美味しい。
・大館能代空港のバスが大型化されていた。途中の鷹ノ巣駅まで混むことが多かったので、素晴らしい進化である。

3日目

後生掛温泉 0930 (送迎バス) >> 鹿角花輪 1020
鹿角花輪 1053 (花輪線) >> 東大館 1141

秋田比内や

大館 1357 (つがる4) >> 鷹ノ巣 1414
鷹ノ巣 1440 (秋田内陸線) >> 角館 1641
角館 1702 (こまち38) >> 大宮 1939
大宮 >> 横浜

3日目Tips
・東大館駅で降りて徒歩で「秋田比内や」。絶品の比内鶏親子丼と素晴らしい接客の女将さん。
・秋田内陸線の急行車内では日本酒を売っている。昨年はワンカップだった気がするのだが、今年は300ml瓶に小さい枡が付き、種類も増えた。冬景色を眺めながらチビチビと角館へ向かった。こちらも素晴らしい進化である。

さんふらんしすこのおもいで

昨年、結婚にあたって業務連絡を行った結果、ドクターしんコロからお祝いを頂いた。お礼の連絡をするまで記憶の片隅に埋もれていたのだが、彼の娘さんに会いに行くと言って、実現しないまま時が過ぎていた。旅行を真剣に捉える僕であっても、記憶の片隅には到達が困難であり、次に埋蔵物を掘り起こす頃には更に数年が経過している可能性が高い。

キモいオッサンが来たと思われる前が、女の子を訪ねる頃合いだろう。カレンダーを見ていたら、サンクスギビングの週末に日米の祝日が重なっていた。子供の成長は早いので、手遅れにならないうちに行動する必要がある。早々にサンフランシスコへ旅立つことにした。

実質的な滞在初日はサンクスギビング当日だった。日本の元旦なみに休みとなる日だが、屋外なら何か出来るのではないだろうか。せっかくなのでレッドウッドの森に行ってみたいと思いリサーチしたところ、ミュアウッズ国定公園が営業していた。駐車場は予約制だが、スペース確保に成功。

更にリサーチを重ねたところ、国定公園の近くにビューポイントを見つけた。北カリフォルニアの美しい海岸線を見渡せる場所である。そして最後にゴールデンゲートブリッジを見に行った。ゴールデンゲートに着いたのが日没時間帯になり、赤い橋に夕日が当たる素晴らしい景色を楽しめた。

リサーチ通りの素晴らしい一日になった。

翌日はブラック・フライデーだ。クレジットカードを握りしめて、バーゲンセールに行く日である。僕はTUMIのスーツケースを昔から愛用している。ハードな使い方をしても壊れないのだが、さすがに使用期間10年は長すぎ、プラスチック部分の劣化による不具合が発生した。修理に出すか悩んだものの、日本だと修理費用が高そうだし、そもそも古すぎてパーツがあるか定かではない。致命的な故障には至っておらず、ガムテープで補修したまま使い続けていた。

この機会に新しいスーツケースを買い足そうと、僕もクレジットカードを握りしめ、サンフランシスコのダウンタウンへ連れて行ってもらった。西海岸の大都市なので大きな店舗があると思い込んでいたのだが、行ってみると意外に店が小さいし、ほとんどセール品もなかった。何のために西海岸まで来たのだろうかと、旅の主要目的は忘れ、絶望に襲われた。

ショックを受けている場合ではない。慌てて調べてもらったところ、近郊の街にアウトレット店舗があった。おっとり刀で駆けつけるが、アウトレットモールの手前3キロくらいの高速道路上から激しく渋滞していた。5車線くらいあるハイウェーにも関わらず、出口車線2レーンは実質的にストップ、残りの車線もロクに動かない恐ろしさである。このまま行ったところで駐車場は見つからないだろうし、帰りに駐車場から出るのも大変だろう。被害が少ないうちに、挫折することにした。

この日はリサーチの少なさが仇となり、何も成しえない一日となってしまった。

しかし諦めている場合ではない。アウトレットは最終日に再チャレンジさせてもらう事にした。ホリデーシーズンの週末だけあって渋滞していたが、そこそこスムーズにアウトレットモールまで辿り着けた。駐車場も混んでいたが、ほぼ待たずに空きスロットを発見。

満を持してTUMIアウトレット店舗に行くと、995ドルのスーツケースが半額になっていた。その横に前から欲しかった575ドルのバックパックが置いてあり、これも半額になっている。スーツケースを買うだけで約500ドルが節約できるので、実質290ドルのバックパックを買っても、まだ余りある。と思う。

バックパックを買うべきか悩んでいると、悩むくらいなら買えと言われた。自分では決めきれないまま、スーツケースとバックパックを持ってレジに向かった。気が付くとレジではバーコードの読み取りがなされており、言われるがままクレジットカードを差し出していた。

結果、僕はアウトレットで何を成して、何を成しえなかったのだろうか。

ここに至って、バックパックさえ買わなければ500ドル節約できた筈と後悔するのは、さすがに野暮だろう。理性的な判断としては、差し引き210ドルを節約し、必要さが曖昧なバックパック1個をゲットした、あたりではないだろうか。

しかし店で渡されたレシートを見たところ、You Saved $785と大きい字で書いてあった。

どう言う事だろうか。もしかすると、500ドルの節約が出来なかったと後悔している場合ですらないのかもしれない。

たしかに2つ合わせて1570ドルのスーツケースとバックパックを半額で買ったのだ。1570 x 50% = 785。数学的には正しい計算である。

先程までの心情的にはしっくりこないが、客観的かつ受け入れやすい論理である。僕の判断が間違っていたのだろう。理性ではなく、数学に従うべきなのだ。

さて数学的に50%オフなので、値引き後のスーツケースとバックパックは、節約額と同じ785ドルである。しかし忘れがちなカリフォルニア州消費税を払うと865ドル位になり、クレジットカードの請求書が来たところ、結果的に13万円ほどだった。

何かが間違っている気がする。

決めきれないままに散財した13万円。その結果が、半額のスーツケースと、必要さが曖昧なバックパック1個である。前者は百歩譲るとしても、後者は不要ではないだろうか。

後悔が始まった。

とにかく冷静に考えて行動すべきだった。州消費税のほか、円安の影響を考慮に入れるべきだったのである。すなわち数学理論に加え、経済理論も加味する必要があったのだ。

反省の為、改めて論理的に検討を重ねることにした。

購入したスーツケースとバックパックは現行モデルの廃盤カラーだが、そもそも僕は製品の耐久性に価値を見出している。長期に渡って使うものであり、最新オシャレである必要はない。すなわちデザイン上の違いに貨幣価値は見出だせない。

それを踏まえてTUMIの日本サイトを見たところ、色違いの現行品を日本で買うと合計27万円を超えるようだ。仮に27万円とすると、270,000 – 130,000 = 140,000となる。

実際の現行価格は27万円を超えるのだから、つまり14万円を超えるセービングと考えられる。すなわち日本円ベースでは半額以下であり、ドルベースでの数学理論を超越していた。経済理論を加味したところ、行動の正しさが補強されたのである。

なんとなくハッピーな気分になって、クレジットカード請求書をしまい込んだ。

今回の旅を通じ、旅行も買物も事前リサーチが重要なのは明らかだった。しかし常に完璧なリサーチを行えるとは限らないのが人生であり、ダメな時は流されるままに行動するしかない。そんな時でも論理的思考を重ねることで、異なる結論に辿り着ける。

理性的には、人生そんなに甘くない。と思う。

いずれ厳しい現実に向かい合う必要がある時は来るかもしれないが、それは後日のことである。当面は「コップに水は半分もある」のだ。

それでいいのだ。