たいなんのおもいで

台湾旅行は母親がメインだったので、移動の労力が少なく、無難な行程にしようと考えた。それでも一捻り加えたく、九份の近くにある基隆という港町で1泊、もう1泊は台北で過ごそうと思っていた。これなら移動は台湾北部で完結するし、台北以外の街も見ることができる。

結果的に意味があったかは分からないものの、混雑回避のため、九份の宿泊を平日にする条件となり、台湾に到着する金曜日に九份へ行く事になった。九份から基隆までは路線バス1本で移動できるため、翌日の土曜が基隆泊。すると結果的に台北宿泊は3泊目である日曜の夜になる。

しかし一通りの手配を済ませた後で調べたところ、台北の公設市場は月曜日が定休らしい。いくらルート自体が合理的でも、市場好きとしては最終日が味気ない旅になってしまう気がした。しかも前回の訪問時に感動したプライベートキッチンは、最近になって閉店していた。このまま最終日に台北へ行くべきなのだろうか。

迷走が始まった。

毎日のように旅行ガイドやYouTubeを見てウジウジと悩んだ。チョイスは多くあるが、移動ばかりだと当初の目的とは反するし、日程的にも詰め込み過ぎになる。色々と考えた結果、台南という街が良さそうだとの結論に達した。文字通り台湾南部にある、古い街並みが残る都市だそうである。台北の宿泊は見送り、ついでに基隆訪問も見送り、台南で2泊することにした。ようやく決め切れた時には出発2週間前を切っており、ホテル探しに苦労した。

小雨が舞って肌寒い九份から台北に戻り、台北からは台湾高速鉄道、いわゆる台湾新幹線での移動となる。たしかに距離は遠いが、移動時間としては2時間ほどで済むし、座席は指定席だ。台南に着くと、汗ばむくらいの気候である。天気は快晴。別世界のようだった。

台南では安平樹屋という古い倉庫跡に行ってみたかったので、まずはカメラを持って向かう。夕方の美しい斜光と絡めて撮影できた。あのまま基隆へ行っていたら曇天から抜け出せなかっただろうから、結果的には大正解である。

その日の夕食は、中国語ができる友人にリストアップしてもらった中から選んだプライベートキッチンへ。FacebookとLINEを併用して予約を入れたものの、デポジットの振込を求められるなど、中華圏のプライベートキッチンならではのハードルの高さがあった。洋食も扱う広東料理系の店だと思って行ったのだが、想像を超えた繊細な味付けの店だった。予約のハードルを乗り越える価値があるというか、この店だけでも台南に来て良かったと思えた。

本格的な観光は翌日から。まず早朝に市場へ行くところからスタートした。市場で軽食を購入してホテルに戻り、一休みしてから市内の観光スポットをウロウロした。微妙に街が大きく、行きたい場所を半分くらいカットしたが、それでも約14キロも歩くことになった。

元々の台湾文化に、オランダや日本の統治時代の影響が加わって、台南は極めて興味深く、非常に楽しめた。行きそびれた場所もあるし、風情ある路地裏も多そうだ。再訪してみたい街である。

今回の旅ではUBERを活用したし、休憩時間も取るようにしたが、4日間の台湾旅行で歩いた距離は約40キロだった。飛行機や鉄道の移動は意図的に調整できたものの、観光目的の旅行としては、たぶん歩き過ぎということになる。

移動労力の削減を目指したが、僕がプランニングする以上、旅のスタイルは変えられないようだ。しょせんワガママなオッサンである。ちなみに母親は今年80歳に達しており、同じ鍼灸院に行っているが、鍼灸師いわく僕よりも健康らしい。

余計なことを考えず、自分自身を何とかしろということなのだろう。

きゅうふんのおもいで

昨年12月にインフルエンザのような風邪で寝込んでいたところ、救援物資を持って母親が来てくれた。その際に話したところ、台湾の九份に行きたいとのことである。

台湾の気候を調べたところ、概ね4月以降は半年ほど雨季になるようだ。僕は旅行をシリアスに捉えており、迅速に行動することにしている。来シーズンまで待たずに行ってしまう事にした。カレンダーを眺めると今年2月は3連休が2回あったが、そのうち1回は旧正月と絡むのでパス。さすがに母親を連れて弾丸旅行も無理があると思い、有給を1日取って4日間の日程とした。

僕は今回で2回目の台湾訪問だが、以前から九份は異様に混むと聞いていた。金曜午後から週末2.5日の予定だった前回は、敢えて九份と故宮博物院には行かなかった。週末を避けるべく、今回は平日に九份で1泊することにした。

旅行初日は正午頃に台北の松山空港に着いた。この空港は台北市内にあるので、そのままUBERで九份まで行ってしまう事にした。台北を出発した時は曇天だったが、徐々に小雨が舞い始めた。九份に着いた頃には、完全な雨になっていた。

宿泊するB&Bは公共駐車場の奥にあるのだが、その駐車場は既に観光バスで溢れかえっていた。宿の前まで車で行くのは諦め、雨の中を徒歩で向かう。どうにも良くない気がする。こういう時に限って傘はスーツケースの中なのだが、問題の本質はそこではない。

荷物を置いて街へ出ると、やはり混んでいた。観光客を見に来たような混雑である。その時点で14時過ぎなのだが、夜景が有名な街なので、夕方になるにつれて更に人が増えるのだろう。しかも狭い路地で傘をさしているので、極めて歩きにくい。どうにも良くない。見晴らしの良い喫茶店があったので、逃げ込んで様子を見ることにした。

しばらく喫茶店で時間を潰しても雨は上がらず、眼下の道路はバスで渋滞している。どうにも良くなる兆しは見られず、諦めて宿に戻ることにした。

九份から台北に戻る路線バスがなくなる20時頃を過ぎると人出が急に減ると聞いていたので、19時になって再び街に出た。雨は止まず、まだ混雑している。14時頃と比べて、多少マシという程度だろうか。九份は急坂の街であり、坂の下にある宿に戻るのも面倒くさいし、体力も使う。別の喫茶店に入って再度の時間つぶし。どうにも良くない。

20時になって喫茶店を出ると、ついに人出が減っていた。雨は止まないが、ようやく観光名所である茶屋の前まで到達できた。この有名茶屋の前に、別の茶屋があってビューポイントと聞いており、撮影がてら入ってみた。槍ヶ岳に登ると槍ヶ岳が見えないのだから、借景にこそ意味がある。

日本では喫茶店に入ることは滅多にないが、台湾に着いて半日で3回目だ。水分摂取量が半端ない割に、アルコール類はビールすら口にしていない。どうにも良くない。

この日は喫茶店と買い食いばかりで、食事らしい食事はANAの機内食だけである。空腹を覚えたが、既に茶店の食事タイムは終わっていた。どうにも良くない日である。

夜景を眺めながらお茶を飲んでいたら、どうやら母親が店の老板に気に入られたらしい。しばらく日本語で色々と話した挙句、弁当をもらった。どこかの団体旅行の残りなのだろうが、なかなか美味しい。取り分ける食器まで貸してくれるサービスぶりだった。ありがたい。最後に耐えきれなくなって「老板、ビールください」と言ってしまった。日本語が通じるのは素晴らしい。

雨は翌朝まで降り続け、出発前には霧雨程度になったが、いずれにしても曇天である。それでも午前中は人出が少ないので、宿から15分ほど坂を駆け上がり、例の茶屋の前まで行って撮影。

この日に限らず九份は雨が多いらしいし、あまりにも観光地化しすぎていて写真も撮りにくい。どこで写真を撮っても、どこかで見た写真にしかならない。撮影ポイントを探すにしても、人間が多すぎて気力が萎える。写真メインの観光地としては、どうにも良くない場所である。

結局、九份の良かった思い出は弁当だけという、なんとも複雑な場所だった。どうにも良くない場所が、どうでも良い場所にならずに済んだのは、あの老板のおかげである。真是謝謝你。

おいらせのおもいで

承前。ほぼ思い付きで行った函館で吹雪に遭遇、ほとんど写真撮影せずに旅が終わった。その前に行った後生掛温泉も写真的にイマイチな天候であり、北国の冬が好きな僕としては欲求不満が募った。

このまま春を迎えて良いのだろうか。日程ありきの旅も、思い付きの旅も、結果的に欲求不満だった。こうなったら天候ありきの旅をするしかない。会社が超多忙な日々は1月で区切りが付いていた。出たところ勝負で日程を決められる。

函館から戻った翌日から、毎日のようにカレンダーと週間予報を見比べていた。ついに2月中旬の日~月に晴天の予報があった。今回も三沢までの特典航空券に空席があったので、前回挫折した奥入瀬渓流に行ってみることにした。

ルートは概ね検討済だったのだが、現地ツアーに参加するため、送迎バスより早く奥入瀬へ着きたいと思った。地元のバス時刻表を眺めた結果、三沢空港から路線バス3路線を乗り継ぐことで、奥入瀬渓流まで自力で行けることが分かった。三沢空港~三沢駅前~十和田中央~焼山というルートである。全ての路線が同じ会社の運行ながら、バスを乗り継ぐことを考慮していないと思われるスケジュールとオペレーションだったが、なんとか奥入瀬に到着した。

予報通りに天気は良かったが、実際のところ考慮すべき問題は他にもあった。今年は異様な暖冬だったのである。2月中旬にしては気温が高く、氷柱は終わっていたし、積雪も少なかった。平年だと3月中旬相当の気候らしい。それなりに写真は美しく撮れたが、雪が少ないのでイマイチ迫力がない。

結局、下手の考え休むに似たり、だったのかもしれない。暖冬だった今年の冬は、どうあがいても不完全燃焼にならざるを得なかった。と思う。

こういう時こそ、旅人としての本質が問われるのではないだろうか。撮影は旅の主目的の一つではあるが、それだけではないだろう。

知らない土地へ行き、馴染みのないものを食べ、酒を飲む。僕の場合、異文化交流とか触れ合いとかは苦手なのだが、それでも日常でない何かは体験できる。

究極のところ、旅とは何かを考える機会なのだろう。バス会社のスケジュールへの不満のような表層ではなく、もう少し埋もれたところにある何か。未知の体験を通じて思考し、旅を通じて、感情の奥にある埋もれた自分自身の本質に辿り着きたい。

写真撮影が1カットで終わった吹雪の函館旅行であっても、欲求不満に陥るのは僕自身の未熟さ故なのかもしれない。不満を乗り越え、何かを考え、何かに辿り着くべきだったのだ。人間とは考える葦なのだから。

それこそ、下手の考え休むに似たり、なのかもしれないが。

旅のしおり:奥入瀬渓流

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 0735 (JAL153) >> 三沢 0855

三沢空港 0910 (バス) >> 三沢駅 0926
三沢駅 1045 (バス) >> 十和田中央 1114
十和田中央 1124 (バス) >> 焼山 1215

・奥入瀬渓流ツアー
・奥入瀬ライトアップツアー

宿泊:奥入瀬渓流ホテル

1日目Tips
・三沢空港から三沢駅へのバスは微妙に延着、ダイヤ上0927発の十和田行きバスが目の前で発車していった。たぶん信号1回相当の遅延だろう。
・十和田中央バス停の近隣に「十和田市まちなか交通広場」が整備されているが、三沢から十和田へ行くバスは乗り入れず、別の名前のバス停に停まる。十和田から三沢へ行く逆行程のバスは乗り入れるらしいが。
・三沢から十和田へ行くバスは7分遅れ、接続を待たないことは想像に難くなかったので少々あせる。実質3分接続だったので、あと信号1回ぶん遅れたら間に合わなかったのではないだろうか。そういう時に限って、乗り継ぎ先のバスは通りの反対側の停留所である。これで乗り遅れていたら、交通広場の不条理について書いていたところだった。

2日目

・奥入瀬渓流ツアー

奥入瀬渓流ホテル 1030 (送迎バス) >> 青森駅 1230

青森駅 1325 (バス) >> 青森空港 1400
青森 1500 (JAL146) >> 羽田 1625

2日目Tips
・青森駅前に着いて違和感を感じた。よくよく考えると、初めて雪のない青森に来たのだ。屋外で時間を潰せる。快晴の青森港を眺めながら、アップルパイを食べた。
・日曜夜に羽田へ到着した時の殺伐とした感じが苦手なのだが、平日昼間の到着便は精神的に平和である。