しれとこのおもいで

先日ついに礼文島へ行ったが、心残りの一つは利尻富士を見る機会が少なかったことである。礼文島からも海越しに利尻富士が見られるのだが、雲に阻まれることが多かった。

今年は静かに利尻・礼文を楽しめる最後の機会だろう。利尻島に行って、じっくり利尻富士を眺めたい。

札幌経由で利尻島までのマイレージ特典航空券に僅かながら空席があり、9月のシルバーウィーク後をターゲットに予約を入れた。7月中旬に秩父へ行ったが、それ以降は夏休み期間になって人出が増えそうなので、しばらく旅行はパスしていたのである。

航空券を確保した後、宿泊施設や島内の移動などについて色々と調べてみたが、どうもイマイチしっくり来ない。

利尻島の方が礼文島より広いし、人口も多い。礼文島は最果ての島という感じだったが、そこまでの雰囲気は利尻島では味わえないのではないか。

しばらく迷った末、特典航空券はキャンセルすることにした。僕の場合、計画段階で「しっくり来る」というのが極めて大事だ。

諦めて大人しくしているようなタイプではないので、改めて旅行先を考えてみた。

知床半島、野付半島、屋久島あたりが思い浮かんだ。今年の特性を考えると、普段は観光客で混んでいそうな知床か屋久島が良いだろう。とはいえ、利尻島をパスしたくらいなので、屋久島という選択肢はない気がする。

知床半島のウトロには、友人が絶賛していたホテルがある。

本当は流氷の時期に知床へ行きたかった。それでも知床半島へのゲートウェイとなる女満別空港 (網走) まで、マイレージ特典航空券の空席があったこともあり、知床に決めた。

世界遺産の知床であるが、じつは大して分かっていない。美しい自然の残る半島ということなので、トレッキングをすればいいのだろう。船上から知床半島を眺める選択肢もあるようで、観光船の予約も入れた。

しっくり来る旅行計画になった。

しかし冷静に考えると、利尻にしても、知床にしても、北海道へ大自然を眺めに行くだけだ。日程的にも、9月の同じ週末である。なぜ「利尻島にはしっくり来ない」にも関わらず、「知床半島にはしっくり来る」のだろうか。

そこに関して、しっくり来ないのである。

こういうのを「ひらめき」とでも言うのだろうか。しっくり来たのに、しっくり来ないまま、知床に向かって旅立った。

ちちぶのおもいで

数年前、知り合いのオッサンと秩父に行くような話になったが、なんとなくウヤムヤにしたことがあった。川下りができる渓流はあるものの、それは荒川であり、田園風景といっても、それは埼玉県である。あまり食指が動かなかった。

移動に制約の多い状況下、今年は箱根に行った。帰りの小田原駅で東海道線の通勤電車を見たとたん現実に引き戻されてしまうのが欠点ではあるが (仮称:小田原の悲劇) 、かなり満足できた。旧型の登山電車も撮影できたし。

神奈川県で満足できるなら、埼玉県でも満足できる筈である。登山電車を眺めるだけだった箱根よりも、渓流下りに加え、SLも運行されている秩父の方が楽しめるのではないだろうか。夏休み期間中は混みそうなので避けるとして、その直前には梅雨が明けていることを期待して宿の予約を取った。

期待通り、旅行前に梅雨が明けた。夏である。

まずは横浜から東海道線に乗って熊谷に向かうことにした。熊谷でSLに乗り換え、終点の三峰口へ向かう。三峰口駅にはSLの整備を見学できる公園がある。撮影には最適の快晴だった。

しかし暑い。とにかく暑い。日差しも強い。

関東で猛暑の場所と言えば、館林や前橋とならんで熊谷である。熊谷から秩父まで来ると、多少なりとも標高は上がっているが、それでも山の中ではない。むしろ関東平野の隅の方と捉えるべきで、結局かなり暑い。あとで調べてみると、滞在中の秩父の最高気温は34度もあった。最高気温35度だった熊谷と大差ない数値である。

翌日も快晴で、長瀞で渓流下りをした。この日もジリジリと暑いが、さすがに川面には涼しい風が流れていた。しかし船に乗っている時間は15分程度しかない。あとはカンカン照りの関東平野である。

山に行けば涼しいだろうか。ちょっと遠いが、三峰神社までバスで行ってみることにした。標高が約1100mなので多少は涼しく、時折、心地よい風も吹く。

それでも秩父は秩父だった。歩いていると大量に汗をかくし、強烈な日差しの中、駐車場で帰りのバスを待っているだけで暑い。バスはCOVID-19対策で換気が徹底されており、冷房の効きが悪い。そこそこ混んでいるし。

旅の目的の一部は写真撮影であり、晴天について文句を言う筋合いはない。仮に秩父あたりで天気が悪かったら、何も見ないで帰ってしまいそうだ。

そうは言っても、ここまで暑いのは堪える。梅雨明け直後であり、ジリジリと暑いのには体が慣れていない。秩父に田園風景が広がっていると言っても、そこは開発の進んだ関東平野であり、そうそう都合のいい場所に木陰があるわけではない。

今回の旅行時、秩父では飲食店でビールが飲めた。そうなると昼前からでもキンキンに冷えたビールに逃げるしかない。昔、夏休み中は清涼飲料水を飲みすぎるなと学校で指導されていた気がするが、今は酒でさえも自由に飲める。オッサンで良かった。

秩父で2日を過ごし、自宅に戻った。帰りは小田原の悲劇を避けるため、西武特急に乗って池袋経由にした。これなら都心までJRの通勤車両を見なくて済み、旅の余韻を長く楽しめる。

そんなに歩き回ったわけではないが、帰宅すると猛暑の影響で体力を消耗していた。しかもビールを飲み過ぎたせいか、胃腸の調子が悪い。

弱りながらも思い返すと、宿の予約をしたのは4月下旬だった。風薫る新緑の季節である。冬の寒さを脱し、楽観的な希望に満ちていた。

その時は想像すらしなかったが、秩父の夏は過酷だった。これこそ秩父の悲劇である。

旅のしおり:秩父

1日目

横浜 (東海道線・高崎線) >> 熊谷
熊谷 (SLパレオエクスプレス) >> 三峰口

SL転車台

三峰口 (秩父鉄道) >> 秩父

宿泊:新木鉱泉

1日目Tips
・パレオエクスプレスは途中で何度か普通列車に抜かれる。かなり必死で走っている磐越西線のSLからすると、ちょっとユルい感じ。乗客には乗務員の苦労が分からないものだけど。
・三峰口で転車台が動くのは1330-1340頃。それまでは整備風景を見られる。

2日目

秩父 (秩父鉄道) >> 長瀞

渓流下り

長瀞 (秩父鉄道) >> 御花畑
西武秩父駅前 (バス) >> 三峰神社

三峯神社

三峰神社 (バス) >> 西武秩父駅前

餃子菜苑

西武秩父 (特急ちちぶ) >> 西武池袋
池袋 (湘南新宿ライン・東海道線) >> 横浜

2日目Tips
・三峰神社まではバス。所要時間が長いので、座れないと過酷である。早目に乗るしかないが、始発の停留所でも5分くらい前にならないと乗せてくれない。
・最後に秩父の餃子屋さんでビール。餃子は野菜多めで美味しく、ビールは大瓶。気風の良いおばあちゃんが切り盛りしていた。

旅のしおり:礼文島

旅のしおり:礼文島

記載の時刻は訪問時のダイヤです。

1日目

羽田 1035 (ANA 571) >> 稚内 1225

稚内空港 1235 (宗谷バス) >> フェリーターミナル 1310

稚内港 1445 (ハートランドフェリー) >> 礼文島・香深港 1640

宿泊:花れぶん

1日目 Tips
・ピーク時の礼文島は宿泊料が高い。普通に営業できるのは一年の半分くらいで、花のシーズンは更に短い。そもそも離島は物価が高そうだし、そういう価格設定にならざるを得ないのだろう。普通のホテルに高い料金を払っても面白くないので、あえて最も良さそうな宿を予約。部屋は広くて快適、なによりも料理が美味しい。素晴らしい。

2日目

レンタカーで礼文島周遊

2日目 Tips
・ネットでレンタカー予約できないと思ったら、どうやらシステム的に切り離されているようで、現地の営業所に電話して予約。最初は2日目しか空きがなかったが、直前に電話したら3日目の午前まで借りられた。どうしても手配がつかなければ、稚内で車を借りて、フェリーで持ち込みもありかも (?)
・運転はキライなので、車を借りるかは再び悩んだ。トレッキングとか、サイクリングしている人も多そうなので。とはいえ、決して小さな島ではないし、アップダウンも多い。撮影メインの短期滞在なら車は非常に便利。定期観光バス、もしくは路線バスと徒歩でも回れそうなのだが、バスのダイヤと青空のタイミングをあわせるのは至難の業だと思う。北国の島とはいえ、さすがに7月は晴れれば暑い。しかも僕の日常は運動とは程遠い。

3日目

レンタカーで礼文島周遊

礼文島 1325 (ハートランドフェリー) >> 稚内 1615

稚内 1744 (JR特急・宗谷) >> 札幌 2257

3日目 Tips
・稚内から札幌まで特急列車で5時間ほど。車内販売も自販機もない。稚内駅にセイコマがあるので、乗車前に買い物が必要。
・稚内発の宗谷本線は進行方向右側の方が景色いいみたい。
・中島みゆきを聴きながら北海道を旅したいと思い、特急乗車前にiTunesでアルバムを購入。しかし列車に乗ってからイヤホンを忘れたことに気付く。

4日目

札幌 0550 (JR快速・エアポート 50) >> 新千歳 0628

新千歳 0730 (ANA 050) >> 羽田 0905

4日目 Tips
・謎の札幌宿泊について。フェリーが夏ダイヤであれば、JAL系列のHACを利用して利尻空港経由 (札幌・丘珠空港ゆき。新千歳まで移動が必要)、またはANA利用の稚内空港経由 (新千歳空港ゆき) で当日中に羽田まで戻れたと思う。今回はCOVID-19の影響でフェリーが春ダイヤだったので、利尻島では空港への路線バスに接続せず (タクシーは予約できず)、稚内空港も間に合わなそうで見送り。宗谷本線に乗ってみたかったのもあるけれど。

稚内の記憶

利尻島には空港があり、札幌 (ANA新千歳、JAL丘珠) から定期便があるが、一般的に利尻島・礼文島へのゲートウェイは稚内だろう。ここからフェリーで島に向かうことになる。

稚内は日本最北の町である。最寄りの大都市は旭川だが、直線距離で225キロほど離れる。かたや、サハリン (樺太) の最大都市、ユジノサハリンスクまでは190キロしかない。

2017年にウラジオストクへ行ったのだが、帰国後、にわかに僕の中でロシアブームが沸き起こった。シベリア鉄道の全線乗車は気が遠くなりそうでギブアップしたが、サハリンにはサハリン鉄道というのがあるらしい。全線を往復しても2〜3日といったところ。その当時、稚内から運航されていた国際フェリーでサハリンに行こうと検討していたのは内緒である。

今回は稚内で乗り継ぎ時間があり、稚内駅周辺を散策することができた。

稚内駅の前が稚内港である。駅北側の埠頭には、北防波堤ドームという不思議な堤防があった。昔の樺太航路の名残だそうである。

稚内発着のサハリン国際フェリーは2018年が最後だったらしい。僕のロシアブームは過ぎ去って久しいが、稚内から船でサハリンに向かう日は来るのだろうか。