りゅうひょうのおもいで

昨年、流氷を見に紋別・網走へ出かけた。COVID-19の影響で旅行者が少なく、ホテルも航空券も直前変更が可能だった。天気予報を見つつ、出発数日前に予定をガラッと変えたら快晴にハマり、流氷を楽しむことができた。

こうなると柳の下にドジョウが二匹いないかと思うのが人間である。もう一度、流氷を見に行きたいと思った。自分の手配ミスもあって、旅の前半である釧路~川湯温泉は予定変更したが、さすがにピークシーズンの網走~紋別には予定を変えるほどの余裕はない。日程ありきで、うまく天候がハマることを祈るしかない。

残念ながら天気予報は曇り優勢だった。降雪の予報であれば、途中から東京に戻ることも考えたのだが、そこまで悪い予報ではない。北海道の神様に任せるしかない。

川湯温泉からバスで網走へ向かった。早朝は晴れたので硫黄山を見に行ったくらいなのだが、網走に向かうにつれて徐々に曇っている。やっぱり柳の下にはドジョウは2匹いないのだろうか。

予約を入れていることもあり、天気が悪いまま網走で流氷船に乗った。雄大な風景ではあるものの、写真的には少々物足りない。

網走から更にバスで紋別へ向かう。冬道を走るバスの窓は汚れがちで、外の景色が暗く沈んでいる。僕も暗い気持ちで中島みゆきを聴いていた。いつの間にか浅い眠りに落ちる。

紋別の手前で目覚めると、窓の外が微妙に明るい。窓の汚れのせいで確証はないが、晴れてきているのだろうか。にわかには信じがたい。天気予報は外れたのか。

紋別港でバスを降りると、きっちり晴れていた。夕方の砕氷船は日没時間帯のサンセット・クルーズである。去年はサンセット・クルーズのみ曇りだったので、これだけでも紋別に来た甲斐があったと言える。素晴らしい。

夜は寿司屋で祝杯をあげた。

翌朝も曇り予報である。天気予報は予報なので外れることもあるが、2日も続けて都合の良いようには外れないだろう。

この日の部屋は、昨年と同じホテルの同じ部屋だった。そんな奇跡が起こるくらいなら、柳の下に2匹目のドジョウがいる奇跡もおきないだろうか。

過度な期待はしないことにして、就寝することにした。それでも気になるのが人間の性で、起きたら曇りだった夢を見たのだが。

はたして早朝4時すぎに目覚ましが鳴ると、空は晴れていた。異様に寒いが、心は踊る。

きっちり防寒をして、バスでサンライズ・クルーズに向かった。流氷が沖合まで戻ったせいか、出港が少々遅れたせいか、たんに日の出が早くなったせいか、流氷帯への到着が日の出に間に合わないハプニングはあったものの、この日も流氷を満喫できた。

北海道の神様のおかげで、柳の下にドジョウは2匹いた。ありがとう。

くしろのおもいで

昨年、取引先から貰ったカレンダーをオフィスで眺めていたところ、2月下旬の金曜日を休むと4連休になることが判明した。その頃は未だインバウンド需要が低調であり、もう一回、流氷を見に行ってみたいと思った。その日の仕事はさておいて、予定を考え始める。

4日間もあるので、厳冬期の知床五湖トレッキングに参加してみたい。大まかな予定を決めたところで早々に自宅に帰り、その日の夜には航空券やホテルなどの予約を完了した。ちょっと早目の手配だったせいか、知床のトレッキングは予約受付期間前であり、改めて手配することになった。

その後、昨年12月にはモルディブに出かけて絶望的な日焼けをしたり、年末に思い付きで釧路に行ったりしているうち、知床五湖のことをすっかり忘れてしまっていた。

気付くと年が変わって1月になっていた。同じ日程は誰もが思い付くようで、既にトレッキングの予約が全く取れなくなっている。キャンセルが出ないものかと何度もチェックしたが、どうにも無理らしい。我ながら大失敗である。

やや絶望的になってFacebookを見ていたら、釧路湿原の温根内ビジターセンターでスノーシューの貸し出しをしているとのこと。そういえば昨年の釧路湿原は微妙な天気だった。再度チャレンジしても良いのではないだろうか。

羽田〜釧路のフライトを調べると、残席が数席あった。JR釧網線が運休になった為に挫折した川湯温泉の旅館も、最後の1室が残っていた。さらに知床へのゲートウェーである女満別空港までの航空券は、キャンセル可能な運賃で取っていた。これだけ条件が揃えば、知床をやめて釧路に行くしかない。出発10日ほど前のドタバタである。

東京を昼に出るフライトで釧路へ向かった。初日は曇りの予報だったので期待していなかったが、到着したら晴れていた。釧路は (自称?) 世界三大夕日の街である。散歩がてら、港へ夕陽を見に行った。

翌朝は予報通り晴れ、釧路駅前から路線バスで釧路湿原へ向かった。温根内に着いた時は曇っていたが、しばらくすると晴れてきた。ついに釧路湿原の冬景色をベストな天候で満喫できた。

この時期に湿原の木道を歩く分にはスノーシューは要らないようである。それでも昨年12月より積雪が増えていて、違う風景を楽しめた。あちらこちらで鹿と遭遇。なかなか楽しい。ほとんど無人で、雄大な風景を静かに味わう事ができた。

再び路線バスで釧路駅へ戻って、JR釧網線で川湯温泉に向かった。北海道のローカル線は収支が過酷なせいか、ディーゼル車両1両だけの運行である。それにも関わらず、狭い通路まで人が溢れて乗降に時間がかかる。混雑で約30分の遅延。乗車時間が長いので、たまに混むような日は1両増結して欲しい。

この日の晴れは長くもたず、川湯温泉で降りたら曇天だった。晴れていたらタクシーで硫黄山に行こうと思ったが、やむを得ない。バスで温泉へ向かった。泉質が素晴らしい、いい宿だった。

翌朝は曇り予報だったが、起きたら晴れていた。網走に向かうバスは10時半過ぎの出発である。朝風呂はパスすることにして、地元のタクシー会社に電話して硫黄山往復を頼む。数年前に来た時は天気が悪かったので、再チャレンジだ。硫黄で黄色い山肌に、モクモクと水蒸気があがる。ワイルドな光景である。

天候が原因で川湯温泉には2度も行きそびれていたが、今回は自分の手配ミスが原因で行くことになった。これだけ旅に出ていて、行くも行かないもコントロールできていないのはどうかと思うが、終わり良ければ全て良し。結果的に素晴らしい釧路滞在になった。

もるでぃぶのおもいで

COVID-19以前から頻繁だった東南アジア訪問が2022年末で一段落することになり、最後に派手な旅行をしようと思った。

しばらく前に行ったカンボジアシェムリアップのように、COVID-19の影響による旅行客の少なさがメリットとなる場所を探すことにした。いわゆる観光地らしい観光地がいいだろう。

そこでオッサンには似合わないモルディブである。海に潜って熱帯魚を見たり、ビーチに座ってサンセットを見ながらカクテルを飲んだり、せっかくなので大人のリゾートで背伸びをしてみよう。

たしかにホテルは取りやすかった。4ヶ月くらい前から探し始めたが、乾季でクリスマス休暇シーズンにも関わらず、部屋の種類や日程は選びたい放題だった。しかし料金は高い (それでも安いのかもしれないが、上を見ればキリがない)。結局、背伸びは控え目にして、ギリギリ身の丈にあいそうな値段から3か所に絞り込み、あとは写真と地図から消去法で選んだ。

そして航空券も高い (それでも安いのかもしれないが、フライト時間を考えると高すぎた)。日本から東南アジア経由での接続を考えると、バンコク経由のBangkok Airwaysか、シンガポール経由のシンガポール航空が毎日各1往復しかなかった。結局、JALマイルが貯まり、身の丈にあいそうな値段のBangkok Airwaysにした。シンガポール航空が異様に高かったのだ。

実際に行ってみたところ、モルディブの空港ではAirAsiaなども見かけたので、選択肢の少なさは、予約したタイミングの問題だったのかもしれない。選択肢が増えれば、市場競争によって航空券が値下がりしていた可能性がある。安い物を買ったつもりが、高い物を掴んでいたのではないか。

背伸びをするというのは日常とは異なる消費行動であり、オッサンになってもハードルが高いようだ。

モルディブといえば、オールインクルーシブでイスラム教の国である。オールインクルーシブとイスラム教に関係はないが、背伸びをしているオッサンとしては、消費行動の前提として頭に入れて検討すべき事柄である。

すなわち、モルディブはイスラム教国なので、ライセンスのあるホテルでしか酒が飲めず、値段も高い。事前に調べた限りでは、ビール1本が10米ドル程度らしい。

それだけ酒の単価が高いのであれば、オールインクルーシブにして酒を浴びるように飲むという選択肢もあるが、当然、オールインクルーシブにも相応の価格が設定されている。ホテル選択の時点で背伸びは控え目にしたのに、オールインクルーシブにしたら身の丈にあわなくなるリスクが高い

冷静に損益分岐点を考えた時、赤道直下の南の島で高級ワインをガブガブ飲むとは仮定し得ない。暑くて湿度が高い場所であれば、ビールとジントニックあたりが関の山だろう。ゆえにオールインクルーシブ相当額を飲酒によって回収できるとは思えなかった。

そこで次善の策としてビールを持ち込むことを考えた。丁度お歳暮を頂いたばかりで、自宅のビール貯蔵スペースが満杯になっていた。そこから10本持っていけば、それだけで1万円以上になる。スーツケースにビールを満載して行こう。

我ながら良いアイデアだと思い、荷造りまでした。出発前日の夜である。それでも念の為にモルディブの税関規則を調べたところ、酒類は持ち込み禁止とのこと。しかも入国時に荷物のX線検査があるらしい。これでは入国時に没収されるか、密輸者になってしまう。

やっぱり背伸びをするというのは、オッサンになってもハードルが高いようである。

結局、何も対策しないのが最上の対策ということになり、空に近いスーツケースを持って、モルディブに到着した。ここまでくれば、あとの問題はクレジットカードに解決してもらうしかない。

モルディブ到着の翌朝、ホテルでシュノーケルを借り、熱帯魚を見るべく海に入った。いい年こいて海辺で戯れる。ダイビング体験までしようと思うと相当な背伸びが必要だが、この程度の背伸びであれば何とかなる。西向きのビーチにはバーがあり、午後の遅い時間は燃えるような夕焼けを見ながら飲酒。なんだか素晴らしい。

夢のような数日を過ごし、モルディブ出国前夜、ふと現実に戻って気付くと、赤カブのように真っ赤なオッサンになっていた。

背中が焼けるくらいは想定していたが、首も腹も赤くなっている。最悪なのは太ももで、しばらく座った後で立ち上がると痛いし、うまく力が入らないようでフラフラする。短パンの裾が焼けた肌に触れると痛みが走る。ちょっと前までは熱帯魚と一緒に泳いで楽しんでいたのに、いまやトイレに行くのも困難になっている。

部屋にあったアメニティの保湿クリームを全身に塗りまくり、さらに濡れタオルを足に巻いてみたものの、どちらも即効性はない。このままでは帰りの飛行機から降りられないリスクがある。ネットで対処方法を調べたが、ここまで悪化した症状の記載はない。深夜になって日本の薬剤師の友人に泣きをいれたところ、鎮痛剤に消炎効果があるとのこと。

幸いなことにロキソニンを持ってきていた。ホテルからの出発時、そして空港での搭乗時と降機時に効果が発揮できるように調整して服薬。たしかに鎮痛消炎効果があり、フラフラせずに立ち上がれるし、それなりの速度で歩行も可能である。あやうく航空会社に車椅子をリクエストするところだったが、助かった。

海辺で戯れるとか、熱帯魚と泳ぐとか、そもそも水着を着るとか、オッサンなのに背伸びをしたら、このザマである。

今後は身の丈をわきまえた旅をしよう。

見苦しい参考写真:日焼けから数日後の足の様子

モルディブで見た夕焼けは人生最高だったと言っても過言ではないが、その夕焼けにも増して尋常ではない赤さ、しかも腫れている。モルディブ脱出後もロキソニンと保湿クリームで誤魔化していたが、さっさと病院に行くレベルだったらしい。顔だけは日焼け止めを塗っていたので、服を着ていれば一見なんという事はないオッサンだったのだが。人は見た目で判断してはいけないが、日焼けは見た目の通りに判断すべきだった。