2012/09/02 さんせばすちゃんばるのおもいで

オッサン系バルは絶滅危惧種なのだろうか。そんな気持ちでバスク地方に向かう早朝の列車に乗った。

そう書くと何となくルポタージュぽいが、実際のところ、前日はバルに遅くまでいたので、朦朧としていただけだ。スペインの車窓を楽しもうとの目論見は外れ、ひたすら寝ていた。なんとなく目を開けたときにヒマワリ畑があり、ああスペインだと思ったものの、次の瞬間には寝ていた。感動には程遠い。

気付くと正午ごろ、サンセバスチャンの駅に着くところだった。ホテルに荷物を置き、さっそく旧市街へ探検に出かける。

ここの旧市街はすごい。バルだらけだ。何軒か入り口から様子を伺ってみると、繁盛店、ガラガラ店、地下がレストランの大型店、夫婦でやっているような小規模店など、いろいろだ。改装してLEDやらレーザー系の照明なディスコ風バルも何軒かある。しかしオッサン系が多い。

繁盛している店のカウンターに少々の隙間を見つけたので入ってみた。気のよさそうな兄ちゃんが「やぁ、何を飲むんだい」と聞いてくる。バスク特産のチャコリを片手に店内を見ていると、ここの店は勝手にピンチョスを取って、あとで数を自己申告するようである。取り皿をもらい、手近なところにあるピンチョスを食べる。うまい。「セニョール、そろそろ帰るよ」と正しく申告して店を出た。

あとはこんな調子で、オッサン系バルを攻めていく。隙間があれば突入し、満杯なら次回まわし。何軒入っただろうか。夕食の時間帯で混みあってくる20時くらいには完全に酔っ払っていた。混雑は苦手なので、ホテルに戻って遅めの昼寝。それでも22時過ぎには起きて戦列に復帰していた。

翌日も大体こんな感じで一日が暮れていった。

酔っていない折々に周囲の客をみると、オッサン同士で適当に会話をしているし、一人でノンビリ飲んでいるやつもいる。自由でよろしい。

そんな中、あるバルで見覚えのあるオッサンが飲んでいた。よくよく考えると、そのオッサンは数十分前に僕が行っていた別のバルの店主だった。このオッサンは飲みながら仕事をしていたのに、もう店を抜け出して一杯やってる。なんてことだ。素晴らしい。

バルは最高だ。そしてバルはオッサン系に限る。

2012/09/01 ばるせろなばるのおもいで

さて、やっとバルの話である。食中毒の話とか、牛の話とか、前置きが長いんだな。

英国とアイルランドにはパブがあり、香港には飲茶があり、スペインにはバルがある。バルセロナのバルについては情報過多というか、色々と記事が多い。そのなかからピックアップして行ったせいもあるが、アタリが多かった。とりわけ友人行きつけのスペイン・バルで教えてもらったCal Pepは大アタリだった。そしてハズレは限りなく少ない。今回も裏付けられた持論: マヨネーズが美味しい国は裏切らない。

http://www.calpep.com/

それなりに有名なバルは大体において小奇麗だった。バル (Bar) だからバーに近いと思いきや、むしろレストランに近いような店が多い。

しかしバルとは小奇麗なレストラン風のものなのか?

バルといえばオッサン達が朝からコーヒーを飲み (この時点で酒を飲み始めてもかまわない)、一日に数度やってきては酒を飲んだり、軽く食べたりする場所である。オッサンが集う場所である以上、むしろコキタナイほうが正しいのではないか。

そこでオッサンが生息してそうなバルを探し始めた。旧市街の広場に一軒、古い感じの店を見つけた。入り口あたりには酔っ払いオッサンがたむろしており、店内もモダンとは遠い感じである。最初に発見したときは酔っ払いオッサンが多すぎて入れなかったが、その後、探訪に出かけた。全体的に地味な時間がゆっくりと流れている。タパスは感動するほど旨いわけではないが、普通においしい。それでいいじゃないか。スタンディングで酒をのんびり飲み、一品か二品つまみ、「あでぃおーす」とか言いながら帰る。素晴らしいバルだ。結局、何度も行った。

そして、もう一軒見つけた。旧市街の路地を歩いていて肉屋を見ると、肉屋の奥に酒瓶が並んでいて、簡単なテーブルもある。肉屋酒場だ。

だが、それでも二軒だけだ。バルセロナで僕のイメージに近いバルを見つけるのは難しかった。観光地だからだろうか。カタルーニャのオヤジ達は、一体どこに巣くっているのか。

2012/08/07 しっぱい

外国、とくにヨーロッパへ行くと酒屋が気になる。外国で買う酒は蒸留酒が多い。蒸留酒の中でも、基本的には地元産の怪しげなリキュールを探す。あまり店主とは意思の疎通ができない中、エイヤっと面白そうな酒を選ぶ。「面白そう」の定義は曖昧だが、材料だったり、アルコール度数だったり、瓶の古さだったりする。

酔っぱらっているときに行くと、あまり吟味はできない。ラベルとか、濁り具合とかが気になる程度だ。先日も酔っぱらってバスクの旧市街を歩いていると、酒屋の店先が気になった。実は、この酒屋には既に二度も行っていた。あまり広い店ではないからリキュールのコーナーはあまりなく、ある意味で見尽くしていたのだが。

酔っ払いは何にでも興味津津だ。精神的に後退しているせいかもしれない。見尽くした感のある酒屋だったが、酔っぱらいオッサンはシードラが気になってしまった。

バスクではシードラが作られている。基本的に甘い酒には興味がないが、酔っぱらいだけに何でも興味津津。ラベルをみると、「この液温で、何十センチの高さから一気に注げ」と図入りで書いてある。これなら冷やし過ぎとかの問題もない。瓶を照明に当ててみると濁っていた。酒の濁りは不純物にもなりえるが、旨味成分でもある。これだけ濁っていると面白いかもしれない。そう思うと、酔っぱらいは前進するのみ。冷やしたシードラを東京で飲んだらうまいだろうとか、バルのオッサンのまねをして高い位置からドボドボ注いだら楽しいだろうとか。妄想は広がるばかりだ。気付いたら購入していた。3ユーロくらいだったかな。

その後、話は帰国後まで飛ぶ。なんせ酔っぱらいのしたことだから、翌日には記憶も整合性もない。日本に戻ってきて約一週間後、土曜の夜に知り合いのバーへ持っていこうと思って前日に冷蔵庫に入れた。そして保冷バックに入れたシードラを片手に夜の街へ繰り出した。

詳細は略すが、シードラはイースト臭くて酸味も強かった。よくよく見ると賞味期限ぎりぎりである。保存状態が悪いうえに古いから最悪だな、などと言いつつ、それでも創意工夫とカクテル化で飲みきった。

飲み終わった端から酔っぱらった。バーの営業時間中にさんざん蒸留酒を飲んだ後だから、醸造酒は悪酔いしそうだ。夜の街の見回りに行かないかと誘われたが、お断りして帰宅。帰ると更に酔っぱらっていた。顔が紫色だと言われ、飲み過ぎだと非難される。

以下、時系列で。

日曜日…二日酔い気味。食欲もない。どこにも出かけずに過ごす。軽い発熱。久々に酒を抜いた。
月曜日…会社には行くが、何をやってもうまくいかず。集中力もない。
火曜日…朝、シャワーを浴びると急激に気持ち悪くなる。午前中は寝て過ごし、午後からヨロヨロと会社へ。相変わらず物事は悪くしかならず、気力もない。
水曜日…午後から所用があるので、なんとか午前中は会社に行ってみる。夜に蕎麦屋へ行けるのだけが楽しみで生きていた。18時過ぎに蕎麦屋へ。天ぷらを食べたのが悪かったのか、24時過ぎにリバース。その後、急激に弱る。
木曜日…起きられず。出られず。肉体的には疲労困憊、そして精神的にも落ち込んでいるのが分かる。気が付くと口内炎が出来ていた。夕方、気分転換に近所のレストランへ行った 。
金曜日…起きられず。鬱病の気配がある。昨年の休職していた時期のようだ。困ったなあと思いつつも、昼は近所の讃岐うどん屋に行った。冷たい麺類しか食べたくない。帰ってくると靴擦れが出来ていた。その後は自宅に引きこもる。
土曜日…やや気分的に持ち直す。昼は出歩かないが、夜はバーへ行く。先週シードラを一緒に飲んだバーテンダーは蕁麻疹が出て、腕の色が変わったらしい。この時点で、ようやく食中毒的な症状であることに気付く。
日曜日…ほぼ回復。

そんなこんなで約一週間を棒に振った。シードラの濁りの部分が腐っていたか、製造過程で変な菌が混入し、それが原因で軽い食中毒にかかり、夏の暑さで悪化したというのが正しいところだろう。あまり飲んだことがない酒だったので、なかなか見極めがつかなかった。そもそも購入時には酔っ払っていたし。

見慣れない酒を飲むのにはリスクが伴うが、見慣れないだけに面白い。とりあえず酔っぱらって見慣れぬ酒を買うのは止めよう。