しんがぽーるのおもいで

シンガポールに出張といっても二日間。日中の大半は会議室に監禁されていたが、初日は深夜にマーライオンを見に行き、最終日は15時過ぎに脱出に成功。夕方、帰国前にチャイナタウンで友人に会うことにして、とりあえず酒を飲みに行こうと思った。

ところでシンガポールについては大して分かっていない。急きょ暇になっても、どこへ飲みに行くべきなのか想像もつかず。

ちょっとフォーマルな格好であれば、ラッフルズホテルのロビーのバーに行きたいところだが、熱帯仕様のビジネスカジュアルで、しかも資料の山を抱えているので挫折。

とりあえず前日の深夜に通りがかったマリーナ・ベイまで行って、海沿いのレストランに入った。ハッピーアワーでビールが安い。1パイントで帰るつもりが、お買い得の分も金を払おうと思い、ついつい2パイント。

座ってるうちに涼しくなったので、ついでにジントニック。ハッピーアワーだし。

しかしハッピーなのはビールだけであった。ジンはアンハッピーとのことである。酒税と家賃が異様に高い国のせいか、店で酒を飲むとアンハッピーな請求額である。

あきらかに経費では落ちない請求書を見つつ、アルコールが人生に与えうる悪影響について考えた。それでもマリーナ・ベイ・サンズのショッピングモールでクレジットカードを握りしめて散歩するよりも、人生に対する負のリスクは少ないとの結論に達した。カジノは言わずもがなである。

チャイナタウンで更にビールを消費し、ホテルで荷物を回収して空港へ行き、そのまま深夜の羽田行き。休暇中は大変便利な深夜便であるが、これがなければホーカーズでビール片手にサテーとホッケンミー、朝は肉骨茶という人生もあったかと思うと、やや恨めしい。

なりたくうこうのおもいで

なりゆきで急にシンガポールに出張することになった。出張ということは仕事であり、それは英語にするとビジネスではないかと思ったものの、席はエコノミーである。

ときは夏休みシーズン。マイルを貯めているJALは正規料金しか空席がなく、なんとなくシンガポール航空。今年はエールフランスに乗ってみたり、どうも無駄に飛んでいる。

行きは朝の羽田便か、昼前の成田便ということだった。早起きして羽田に行っても得るものは何もないので、久々に成田の第一ターミナル。梅雨の中休み、空が高く青い。こういう日はビールに限る。昔の記憶を辿るとギネスをおいているバーがあり、なにはともあれバーに行ったものの、アサヒに変わっていた。

眼の前ではルフトハンザの飛行機が出発しようとしており、このままスーパードライを飲んでシンガポールに行っていいものか悩む。ドイツへ行って、デュンケル、バイツェン。そのあと乗り継いでダブリンでギネス。そんな人生があってもいい。

しかしバーにギネスがなかったという理由で、ルフトハンザに乗せてくれるかどうか疑わしい。そんな理由でクビになるのもイヤだ。人生とは自由なものではないのかもしれない。

自問自答しているうちにルフトハンザは飛び立ち、スーパードライは3杯目になっていた。

ちぇんじ

ヨーロッパの旅から帰ってくると、翌朝、財布をなくした。ふと気付くと財布を手放しており、そのまま行方不明になってしまったのである。

財布の中身は主として金であり、金は本質的に行方不明になりがちである。

しかし財布の中には金の他にも色々と入っており、それらは本質的に行方不明にならないことを前提に作られている。とくに免許証、保険証など。

免許センターにいって再交付の申請をし、健保組合に顛末書を出す。高校以来の、言い訳と反省文の日々である。

いまどき個人情報にはパスワードがかけられており、スマホであれば所在地の特定にとどまらず、内容をリモートで消去できる時代である。

それに比べて財布のなんとアナログなことか。財布にはタッチIDはおろか、パスコードすら実装されていない。にもかかわらず、中にはサインも暗証番号もいらない金があり、住所やらなんやら記載されている身分証明書が入っている。

いまどき、こんなでいいのか。物事を本質的に変える必要がある。

財布業界にはセキュリティ対策を、身分証明書業界には紛失対策を、現金業界には行方不明対策を求めたい。そうしたら僕の言い訳も反省文も不要になる。そして後悔も不要になる。