人生、予想と違う結果に驚くことは多い。結婚してみたら不幸せだったとか。
たしかに人生は結果的に予想と異なる方向に進んでしまうこともあるが、想定と本質が違っていることも多い。
世の中は結婚することは幸せであるという前提に成り立っている。しかし、それが必ずしも本質ではないことは多くの例証が物語っていることである。現状維持も地獄だが、手放すのは更に地獄という、銀座のビルのような様相を呈することも多い。
タヒチも誤った前提のもとに訪れた島だった。チケット購入から出発まで二週間。そのなかでのタヒチのイメージは「南半球にある温暖な島」ということだった。今年の冬は寒かったから、「温暖」は歓迎すべきキーワードである。この、大体において歓迎すべき雰囲気こそ、結婚の想定と本質に関する大いなる誤解に極めて近い。
タヒチ到着前、飛行機からはライトブルーの海が見えた。現実とは思えないような色の海である。まさに楽園だと思った。
しかし、飛行機が空港に到着してタラップに出ると、そこには現実があった。暖かいというよりは、むしろ熱気である。汗ばむ陽気。まさに夏である。この時期に南半球の温暖な場所に行くということは、夏の中でも特に暑い場所に行くことである。そして僕は暑いのは嫌いなのだ。理想と現実の違いを思い知らされた気がした。たぶん結婚して半月くらいすると、こういう気分になるのだろう。
幸か不幸かタヒチには厳格なドレスコードはない。空港を一歩出ると、短パン裸足のオッサンとか、薄着のおねいさんとかがウヨウヨしている。毛むくじゃらの足とか、余分な肉を露出することに抵抗のない文化らしい。僕も赤いアロハシャツと短いズボンに着替え、サンダルを履いてみた。
そうこうしていると、それなりに快適になってきた。ホテルにはエアコンもある。海に近いから風もある。翌日には暑さは気にならないほどだ。現実にあわせて生きていく術を身につけたようである。
結婚とタヒチは似ている。しかし、タヒチは本質的に善と言えるが、結婚の本質は誰にも分からない。