昨年の台湾旅行から戻り、次回の台湾訪問に向けて色々と調べていたところ、台湾南部のローカル線に太平洋を望む絶景路線があって、旧型客車を復元した観光列車が運行されていることを発見した。「藍皮解憂号」という、ちょっと気が晴れそうな列車名である。おぼろげな記憶ながら、この列車が台湾国鉄の現役の定期列車だった時代に記事を読んだ事があったのだが、起点となる枋寮のアクセスが良くなくて見送ったまま忘れていた。
逆説的だが、台湾旅行の難しさは、日本からの近さにあるのではないかと思っている。疲労を無視して深夜便を活用すると、3泊あれば東南アジアに行けるし、4泊なら北米やヨーロッパも可能だと思っている。それなりに長期の休みが取れると台湾は計画から外れがちになるが、今回は航空料金の影響で台湾滞在の日程を長く取れるので、ちょうどいいタイミングだろう。
観光列車は週末には混むと想定して、当初は平日に予約を入れておいた。太平洋を望む絶景路線に乗るのであれば、天気の良い日に限る。日本出発前に予報を確認したところ、どの予報を見ても、乗車日の台湾南部は雨の予報だった。
雨では解憂は難しいだろう。出発前日まで週間予報を見ていたが、予報は変わらない。一方、どの予報会社を見ても、日本への帰国前日は晴れの予報だった。この日に今回の旅行の全てを賭けることにした。諸々の迷惑を顧みず、お金で無理にでも解決することにして、ホテルの予約を変更し、列車の予約を入れなおすことにした。
ついに藍皮解憂号に乗る日になった。枋寮は予報通りの快晴である。
ちょっと早めに受付へ行くと、相当な人の群れに驚いた。どうやら台湾の現地バスツアーに組み込まれているらしい。チケットを引き換え、グッズを購入し、駅で列車を待っていると、改札口に行列が出来はじめた。どの程度の混雑か分からないが、鉄道車両の構造上、海側の席は半分しかない。僕も列に並ぶことにした。
この列車は台湾国鉄の南廻線を、台湾南西部の枋寮から台湾東海岸の台東まで往復する。南廻線といっても、完全に台湾島の南端まで廻るわけではなく、山間部をトンネルでショートカットして東海岸に出る。
川端康成は「長いトンネルを抜けると雪国であった」と書いたが、残念ながら僕はノーベル賞作家ではないし、台湾は雪国でもない。
長いトンネルを抜けると雲翳であった。台湾を縦断するように山脈があって、ここを境に天気が変わるらしい。快晴だった西海岸で海の写真を撮らなかったのが悔やまれる。なかなか解憂には至らないまま、台東に到着した。
藍皮解憂号は一日一往復で運行されているが、復路を西海岸での日没時間帯にあわせているせいか、往復利用するとタイトなスケジュールである。台東では駅を見る時間しかなかった。東京都台東区に20年以上住んでいたので、ちょっと残念だ。
折り返し列車の乗車時刻になった。帰路も天気がイマイチである。
列車は途中駅で1時間ほど止まり、ウォーキングツアーとして原住民族の村を訪問した。この1時間の間に天気が劇的に回復した。まさに奇跡である。
乗客が再び列車に戻ると、晴天のまま、太平洋が間近で見えるビュースポットの徐行区間に到着した。
復路は乗客が少なく、中間の1両が無人での運行だった。観光列車全体がツアー会社による貸し切り運転であり、その車両単体が回送として施錠されているわけではなかった。無人の車内に立ち入ることができ、旧型客車の車窓に広がる青い太平洋を撮影できた。まさに解憂列車である。
夕刻、東海岸では山側に日が沈むが、トンネルを抜けると西海岸である。つまり山の奥に沈む太陽を眺めたのち、トンネルを抜けると、海に落ちる夕日を楽しめる。美しい光景を堪能できた。そして茜色の空を眺めながら枋寮に戻った。
日程的には出発直前に無理をし、当日ですらヤキモキさせられたが、まさに終わり良ければ全て良し。この正月休みで完全に解憂に成功した。昨年の僕はボロボロだったが、2025年は明るい兆しが見えた気がした。