しれとこのおもいで

話は夏休みの出発日に遡る。この日は在宅勤務から羽田空港に向かったのだが、日中は母親が家に来ていた。秋の北海道に行きたいとのこと。そういえば前回の知床訪問時は天気が良くなく、紅葉には少々早かった。あの時が9月下旬だったので、ちょっと遅くしてみよう。

仕事を終えて羽田空港に向かいつつ予定を確認したところ、10月中旬に日程が合った。せっかくなので7月に訪問した雄武町の寿司屋さんとあわせて、金曜から日曜の予定で行くことにした。そのまま羽田ANAラウンジのWiFiを使って、JAL特典航空券の予約という罪深い行為に及び、クロアチアへと旅立った。

夏休みから戻ってグデグデしていると、北海道へ行く日が迫っていた。おそらく休前日の知床の宿泊料は高いと思い、金曜に知床で泊まり、土曜は雄武町に宿泊しようと思ったが、意外にも雄武町のホテル日の出岬が満室だった。金曜夜にホテル日の出岬で残っていた最後の一室を確保し、土曜に知床で泊まることにした。これだと土曜午後と日曜の朝に知床五湖へ行けるだろう。

金曜日の朝、女満別空港に到着すると快晴だった。これ自体は素晴らしいことだが、問題は土曜から日曜にかけての天気予報の悪さにあった。前回の知床訪問時に天気が悪かったことが目的地選定の一因なのだが、予報通りだと再び知床で悪天候に遭遇してしまう。

曖昧な記憶だったのだが、女満別空港から知床までは意外に近かった。そして女満別空港から雄武町までも意外に近かった。そうであれば、この日に晴天を求めて、知床へ行くべきではないだろうか。

空港でレンタカーを借りて、昼前に知床へ着いた。平日のせいか混んでおらず、遊歩道へ向かった。青空に紅葉が映え、さらに青空と紅葉が知床五湖の水面に映っている。なんとも美しい。

写真を撮り終わって時計を見ると15時前だった。そろそろ雄武町に向かう頃合いだろう。

ここで北海道を甘く見ていたことに気付かされた。カーナビにホテル日の出岬を入れると、到着予定時間が19時半とのこと。北海道で「意外に近い」を2回繰り返すと、かなり遠いというか、極めて遠い。しかも雄武町の寿司屋さんには19時で予約を入れてある。とにかく車に乗って運転開始。

オホーツク海沿岸には高速道路という無粋なものはないので、高速道路なみの道民スピードの車に付いていったり、市街地でノロノロ運転に巻き込まれたりと不安定なスピードながらも、19時にはホテルに到着。部屋に荷物を置いて、19時20分までには寿司屋さんに着けた。

ここから先、ほとんど記憶にないのである。到着した安堵感と、美味しい寿司で、気付いたら浴びるほど飲んでいたらしい。

気付くと午前4時、ベッドで寝ていた。雄武の温泉は海に近いせいか塩分が多く、なかなかに温まるのだ。せっかく来たのに、入らないで帰るのもどうかと思う。時間が時間だけに、無人と思われる温泉に行った。きっと静かで良いだろう。まだ酒は抜けていない。

まったく何も考えずに風呂場へ行くと、暗がりから「おはようございます」と声をかけられた。どうやら当直の従業員さんが休憩がてら入浴していたらしい。

僕も冷静に「おはようございます」と返したものの、赤面の至りだった。