ふあらんぽーんえきのおもいで

昨年のモルディブはバンコク経由で行ったのだが、JAL深夜便のバンコク到着は午前5時頃だった。乗り継ぎのBangkok Airwaysは午前9時20分発である。約4時間半の待ち合わせだ。僕は空港探検が苦にならないタイプだが、その前に行ったカンボジアからの帰りにもバンコク空港で数時間つぶしたばかりである。ちょっと外へ出てみたい。

タイ料理が苦手なせいか、僕にはバンコクに関する興味が欠けている。それでも調べてみたところ、タイ国鉄のフアランポーン駅 (バンコク中央駅) が未だに稼働中とのことだった。新しい中央駅がバンスー地区に完成して移転予定と聞いたのはCOVID-19流行前で、最後の機会と思って2019年にフアランポーン駅を見に行った。物事が予定通りに進まないのがタイの流儀らしく、どうやら2022年になってもフアランポーン駅への列車の乗り入れが継続していたようだ。

2019年の訪問時は時刻表を見ずに行ったせいか、いまいち車両が少なく、写真としては物足りなかった。今回あらためて時刻表を調べてみると、早朝に長距離列車の到着があるようだ。これは行ってみたい。

寝ぼけたままバンコク空港で入国し、すぐにGrabを呼ぶ。まだ暗いバンコクの街を疾走して、午前6時前にフアランポーン駅へ到着した。早暁の空の下、古めかしく重厚な駅である。

まだ目当ての列車は到着していなかった。旅人たちの喧騒から離れ、整備員の人々と共に、朝焼けのなかをプラットホームのベンチに座って静かな時を過ごした。タイは常夏だが、それでも朝の風が清々しい。

しばらくすると機関車に牽引された長距離列車が到着した。そして更に1本。ドーム型の高い天井の下、昔ながらの客車夜行列車が並ぶ。

25年以上前にバックパックを担いで初めて訪れた時は、混沌が支配する、ちょっと猥雑な活気がある駅だった。あの時の活気はないが、古いターミナル駅の雰囲気は残っていた。

撮影は午前7時くらいに終了。約1時間、じっくり楽しめた。極めて満足して、空港に戻ることにした。

古めかしいフアランポーン駅には昔ながらのタクシー乗り場があるが、相変わらずバンコクのタクシーはボッタクリ満載なのだろうか。このまま旅情に惹かれてタクシーに乗ると、痛い目に遭うかもしれない。

多少なりとも時間に余裕があったので、帰りは電車で戻ることにした。フアランポーン駅には地下鉄も乗り入れている。同じフアランポーン駅でも、タイ国鉄とは随分と違うピカピカの駅だ。途中でエアポートリンクに乗り換え、1時間くらいで空港に戻れた。ちょっとギリギリになってしまったが、Bangkok Airwaysに乗ってモルディブへと旅を進めた。

帰国後しばらくして、2023年1月をもってバンコク中央駅としての機能がフアランポーン駅からバンスー新駅に移転したとの記事を読んだ。一部の近距離列車はフアランポーン駅に残るようだが、もう長距離列車は来ないらしい。

思い返せば思い返す程、夢のような早朝の一時だった。