おいらせけいりゅうのおもいで

黄金崎不老ふ死温泉の後は、五能線に乗って青森に戻り、奥入瀬渓流に向かった。

宿泊は星野リゾートである。冬季は短時間ながら夜景のライトアップに連れて行ってもらえるらしい。昼間も似たような小ツアーがあるとのこと。ここ数年、まったく車の運転をしていない僕である。こういうサービスは素晴らしい。

青森駅前から奥入瀬まで、ホテルの無料送迎バスが運行されている。片道2時間ほどなので、どこぞの温泉旅館のハイエースで最寄り駅まで送迎してもらうのとは桁が違う。これに乗り遅れると、非常に悲しい運命になってしまう。ホテルからの帰りも、送迎バスが遅れて飛行機に乗り遅れると痛手が大きい。降雪などで列車やバスが遅延するリスクなどを考えて、ゆとりある乗り継ぎスケジュールにした。

結果的に青森駅で時間つぶしが2回。せっかちなオッサンだけに、ちょっとツライ時間である。喫茶店で時間を潰すということが、僕には苦行でしかないのだ。

初回の時間つぶしは青森駅前にある「ねぶたの家 ワ・ラッセ」に行った。人混みが苦手なので、普段は地元の祭りすら行ったことがない。ねぶた開催中に僕が青森へ行く可能性はゼロと思われる。ゆっくり見られるのは有難い。

奥入瀬からの戻り、2回目の青森駅時間つぶしは「棟方志功記念館」に行ってみることにした。この日は吹雪だったので市内バスの利用は諦め、青森駅前からタクシーに乗った。

タクシードライバーは爺ちゃんだった。記念館に着く前に話しかけられたが、バリバリの津軽弁である。かなり手ごわい。

失礼にならないように聞き直したところ、記念館の後はどこに行くんだ、という質問だった。記念館のあたりにはタクシーがいないので、見学終了まで待っていてくれる、とのこと。だと思う。

意思疎通は出来ていたようで、30分ほど記念館の近くで待ってもらい、同じ爺ちゃんの車に乗って駅まで戻れた。

この爺ちゃんは昨今の客減少でヒマだったのか、そもそもノリがいいのか、帰り道は色々と話した。

苦労して聞いていると、僕の母親と1歳違いだそうである。津軽半島にある今別の出身だそうで、青森県外に住んだことは無いらしい。つまり70代半ばの完全なる津軽人ということになる。たぶん短期の観光客が遭遇する津軽弁としては最難関だろう。

15分くらい話していたと思うが、理解できた内容は半分ほどしかない。理解したとは言うものの、聞き取れた単語と文脈からの想像に頼っていた。残りの半分は、内容の大まかな予想を元に、差し障りのなさそうな返事を繰り返すしかない。

海外のタクシーでは起こりうる事態だが、こんな目に日本で遭うとは想定外である。

19歳くらいの夏休み、アメリカで最初に行った街はテキサス州ヒューストンだった。いわゆるテキサスなまりの本場である。数日のホームスティだったせいで大勢のテキサス人と話すことになったのだが、到着した当日から英語ヒアリング力のなさに絶望した。いわゆるカルチャーショックと言うやつだろう。ほぼ四半世紀たち、青森でも同じような心持ちになった。

オッサンになっても、旅先で文化的衝撃を受けられるのは素晴らしい。そうは言うものの、疲れ果ててタクシーを降りた。