ある日、ドクターしんコロからニューヨークに引っ越すと連絡がきた。
僕が彼の債権者であるわけではなく、彼が僕の債権者であるわけでもなく、あまり知らされても大して意味がないのだが。たぶん、社会通念上、連絡してくれたのではないかと思う。
シアトルからニューヨークへのステップアップ。イチローみたいだ。きっとマンハッタンのドアマンつき高級アパートに住むんだろう。そういうアパートをアパートと思うなかれ。
ともあれ、ぼくには社会通念がない。残念ながら。
真に受けて、ぼくはニューヨークに行くことを考え始めた。寒い時期にマンホールから湯気が立つなか、コーヒー片手にロングコートを着て歩く。やはりニューヨークに行くのは晩秋がいい。
一方、夏休みの計画を考えたとき、いくならキューバだと思った。いましかない。いまでしょ。
世界情勢をひもといてみると、カリブ海は冷戦状態。ハバナに行くのは、一昔前の東ベルリンに行くようなものだ。とはいうものの、地理的な視点でみると、ニューヨークとキューバは近い。
うーむ。遠いのに近い。どちらもいましかない。どちらもいまでしょ。
そんなこんなで、とりあえず若干のニューヨーク滞在を決意した。