黒部峡谷の見学の後、富山市に向かった。途中の区間を北陸新幹線でショートカットする方法もあったが、地元経済に対して根拠のない貢献をしようと思い、地元の私鉄である富山地鉄に乗った。よく揺れる2両編成の特急電車で1時間ちょっとの旅である。
富山市でやりたいことは特にない。帰りを飛行機にしたので、そのために行ったようなものである。飛行機までの数時間どうしようか。
富山といえば富山湾だ。魚が美味いに違いない。寿司屋に行こう。
よくよく考えると、富山市出身の友人がいる。空港に行きやすく、日曜日の17時からやっている寿司屋を教えてもらうことにした。
すぐに返事がきたが、おすすめの寿司屋は回転寿司とのこと。富山の回転寿司は相当なレベルらしい。実家が行きつけだった寿司屋が廃業した後は、もっぱら回転寿司だそうである。
そうはいっても回転寿司は回転している。富山まで行くのだから、回転しない寿司屋がいい。しつこく友人に聞いたところ、総曲輪という繁華街にある老舗の寿司屋を教えてもらった。
予約の電話を入れるべく店のサイトを見た所、予約なし、アルコールなし、クレジットカードなし、だそうである。
アルコールなし!!??
そんなことが許されるのだろうか。
昔、高校生に「免許を取らせない」「バイクを買わせない」「バイクを運転させない」という「3ない運動」というのがあったらしい。何もなければ問題ないという、事なかれ主義的な非行防止の暴走族対策である。たぶん。
この店のルールも同じくらい取りつく島がない。いまや暴走族は減っているし、こっちはオッサンである。「3ない運動」みたいなのは昭和ぽい。関わりの中に問題解決を求める令和の時代には似合わないのではないか。オッサンには妥協の余地という物が必要である。
再度、友人に問い合わせたところ、その店で酒が飲めないのは昔からだそうである。やっぱり昭和的な気配が漂う。酔うと味覚が変わるという事らしいが。
ただし、この老舗には支店が2軒あり、そこでは酒が飲めるとのこと。予約ができ、カードも使えるらしい。支店は駅と空港の間にあり、地理的にも都合がいい。ここまで来ると、日本的な妥協というよりも、トランプ政権的なビッグディールではないだろうか。
当日は駅前からタクシーで寿司屋へ向かった。17時過ぎに着いて、空港に向かう19時前まで約100分。あまり混んでいなかったせいか、驚異のスピードで飛ばした。おつまみも寿司も結構な量を食べた。うまい。ビール1本、日本酒3合。粘っていたところ、最後に勝駒を出してもらった。富山は素晴らしい。
お店でタクシーを呼んでもらい、空港へ向かった。ちょっと早く着いたので空港ロビーで時間をつぶすが、あきらかに酔っぱらっていた。ここまで来て寝込んでいる場合ではないので、意味もなく歩き回る。搭乗までは無事に済んだものの、飛行機が動き出して30秒後には羽田に着地していた。そこから先、自宅までの道のりも相当に怪しい。
平成生まれの暴走族は減っているかもしれないが、昭和生まれの酔っぱらいは減っていない。昭和生まれのオッサンには「3ない運動」の精神が必要だと思った。