こうしゅうのおもいで

今年のGWは10連休だった。しかしGWとは月末から月初にかけてあるものであり、僕は基本的に月末と月初は仕事である。

一方、今年は7月と8月に3連休があり、2日ずつ代休を持ち越せば5連休が2回になる。そして9月に3連休が2回。9月の連休のタイミングで夏休みを取ろう。これで実質的に夏休みが3回ではないだろうか。

そう思えば10連休がなくても諦めがつく。

GWは計4日ほど働く覚悟でいたところ、勤務先の新制度では代休を1ヶ月以内に取らないといけないらしい。1ヶ月以内に4日も代休を消化するのは厳しい。実質的には代休消失と同じである。急激に心が折れかかった。

代休消失が判明したのは4月18日頃だった。GWの約10日前である。数日間やり場のない怒りを抱えていたが、このまま諦めてなるものかと思い始めた。

強引に出勤日を整理すれば、最大で5連休が捻出できる。旅に出るしかない。どこか旅行先を探し出せるだろうか。

日程が限られているので、ハイシーズンなのにスケジュール重視でチケットを探す必要がある。しかも直前。

手始めに調べたところ、LCCの台湾往復でも10万円を超えていた。普通の週末の倍以上ではないだろうか。コスパが悪すぎる。しかもGW最終日などは空席自体がない。厳しい現実に心が折れかかる。

航空券は需要と供給のバランスなので、需要の少ない所に行けばいい。筈である。日程的には無駄が出るが、帰国日を少し早めることにして、諦めずに航空券を探そう。

2年前には同じセオリーウラジオストクに行った。極東ロシアだと、ユジノサハリンスクとハバロフスクあたりが気になるが、供給が少ないためにスケジュールが合わない。

再び心が折れかかるが、諦めずにウジウジとマイナーな都市を調べていたところ、中国の地方都市への直行路線が穴場だと気付いた。杭州とアモイが良さそうだ。供給座席数に見合ったビジネス需要があるせいか、普段は安売りをしていないが、GW期間中も大して値上がりしない、かなりコスパの高い都市である。

友人のビジネスパートナーが杭州におり、以前、紹興へ行った時に助けてもらった。水郷地帯をゆっくり見たいし、気候も良さそうだし、杭州にするか。行きたい場所を絞れば日程的に2泊でまとまりそうで、帰国日も混雑を避けられそうだ。

航空券を購入する時点では全く認識していなかったのだが、今年の中国の労働節休暇は5月1日〜4日だった。つまり4連休である。どこの政府も強引に連休を作って消費促進しようとしていると感心したものの、そんな感心をしている場合ではなかった。大型連休のせいでホテルが高い。また心が折れかかるが、諦めずに友人に泣きを入れた。

探してもらったホテルは、杭州の中心地から少し外れた地区にあった。京杭大運河が流れるエリアである。ホテルはリーズナブルな値段だし、中心地ほどワサワサしていないし、運河自体も見に行きたかったので、一石三鳥くらいである。

到着の翌朝、ホテルの周りを散歩してみた。ホテルの近くに香積寺というお寺があり、まずは見に行った。軽い気持ちで行ったところ、拝観料を取るような由緒ある寺院のようである。例によって解説の類は読まないので、実際のところは良く分からないのだが。

境内を歩いていると「慶供 素麺」との看板があった。中国語の知識はないが、ここで麺が供されているということではないだろうか。そういえば朝から散歩したので空腹である。麺が食べたい。

しかし食堂のような気配はない。寺院の一部に調理場の入口のようなビニールカーテンが付いているだけである。しかもビニールカーテンの外では調理人のようなオバチャンが横になってスマホをいじっている。食堂というよりも、むしろ調理場そのものではないだろうか。

外で寝そべっている調理人風オバチャンに質問できる中国語力はないし、僕が慶供される対象であるかも定かではないし、そもそも「慶供」の意味も想像でしかない。

三重苦のような状況に心が折れそうになる。諦めかけて境内を歩いていると、出口付近に土産物屋があった。土産物屋の看板にも「慶供」と書かれていた。やはり先程の所で麺が食べられるのだろう。

諦めずに「慶供 素麺」の看板に戻り、恐る恐るビニールカーテンの奥を覗いてみると、はたして食堂だった。

やっと食堂に着いたものの、どうやって注文すべきか分からない。食券カウンターのような所にいた美人おねいさんに麺麺麺麺と訴え続けたところ、食券を出してくれた。食券には壱拾伍圓と書かれており、つまりは15元である。漢字が分かるのは素晴らしい。諦めなくて良かった。

購入した食券を誰かに渡して麺を注文しなければいけないようだが、どうすべきか分からずにいると、さっきの美人おねいさんが取り次いでくれた。ありがたい。

しばらく待っていると、素麺がやってきた。

素麺と言っても揖保乃糸ではない。かけそば的に質素な麺を想像していたが、野菜類が豊富で、かなり贅沢な麺である。お寺の麺だからなのだろうが、スープにも具材にも肉の気配はない。全体的に優しい醤油味だが、ゴマ油のような風味付けをしてあり、いいアクセントになっている。

今回の旅行は行く前から心が折れかかっていたが、諦めない先に喜びがあった。すぐに物事を諦めない人生を送れば、人生にも喜びを見い出せるかもしれない。

しかし2泊の旅では、物事を諦めないことで人生に喜びを見いだせるか否か、結論は出なかった。人生を考えるには2泊では短すぎる。人生の喜びについての問題は、十分な期間を取って夏休みに結論を出したい。