夏が猛暑だったせいか、去年は10月上旬から体調が悪かった。こういう時の日本のオッサンには温泉が必要である。冬だし寒い所へ行こうと思い立ったのは、晩秋にあたる11月の事だった。寒暖の差が激しかったために暖かい日もあり、極寒のボストンに行く前でもあり、僕が寒さに対して寛容だった頃である。
寒い所といえば東北であり、東北に行くなら東北新幹線という思い込みで温泉地を探した。何度か秋田県の後生掛温泉に行った事がある。岩手県との県境に近い山の中で、東北新幹線の盛岡駅からも遠いので旅に出た満足感はあるが、冬は雪深い記憶しかないのでパス。その他の温泉地に関する知識はない。
よくよく考えると今や北海道新幹線の時代であり、新幹線で函館まで行くことができる。どうやら北海道新幹線は営業的に不振らしく、JR北海道の経営を圧迫しているらしい。経済系ブロガーとして北海道新幹線が有益なのか見極めたいし、できることならJR北海道の経営に貢献したい。
そういえば、同じ津軽海峡のマグロでも、大間の漁船に釣られると「大間のマグロ」になって高価だが、北海道の漁船に釣られたマグロには名義料がないのでコスパが高いと寿司屋のオヤジが言っていた。しかも漁船が大きいせいか、北海道側のマグロの方が状態がいいことが多いらしい。能書きは全くの受け売りだが、それでも道南か青森の温泉に行き、函館でコスパの高いマグロを食べることにした。
どこに行こうかと地図を見ていると、秋田北部に大館能代という空港があった。Wikipediaによると、道の駅が空港ビルになっているらしい。ということは、駐車場が駐機場も兼ねているのだろうか。前の道路が滑走路だったりするのだろうか。
東京からはANAが1日2便。出発1ヶ月前の予約なのに、新幹線で行くより安い。大館能代経由で青森までワープしても、JR北海道には悪影響がないだろう。
東京から秋田県経由で北海道に行く必然性が良く分からないが、土曜日の朝なのにガラガラのANAで大館能代空港に着いた。バスで大館駅に出て、そのままJRで青森県へ。搭乗率の向上に貢献しただけマシなのか、地元バス会社にバス代を払っただけマシなのか、僕の秋田県への貢献具合は良く分からないまま、秋田を去った。
翌日、青森から北海道新幹線で函館に行った。寒い。さすがに北海道である。
猿も馬鹿も僕も高い所が好きなので、例の函館の夜景を見に行った。いわゆる100万ドルの夜景であり、いわゆる世界三大夜景だが、その裏付けについては聞いたことがない。
ところで、函館の夜景というと、両側から迫る海岸の湾曲部である。函館に行く前々日まで、あの湾曲部は北海道南部、渡島半島の湾曲部だと思っていた。やっぱり北海道は雄大である。さすが世界三大。さすが100万ドル。すげぇな。
その話を母親にしたところ、そんな馬鹿に育てたつもりはないとのことだった。猿でも馬鹿でも僕でも見れば分かるだろうから、とりあえずロープウェーに乗って見てこいとのことである。
たしかに湾曲部は渡島半島ではなく、函館の市街地だった。一般的には百聞は一見にしかずと言うのだろうが、そもそも映像として見ていたわけで、むしろ猿も木から落ちるだろう。
それでも40年間ほどの誤解が解けたわけであり、北海道に来た意味があったと言える。北海道新幹線の経済的なメリットについては議論の分かれるところかもしれないが、北海道に対する理解を深めるという文化的側面において、北海道新幹線は有益なツールと言えるのではないだろうか。
長年の誤解が解けた後、函館の街に戻って寿司屋へ行き、津軽海峡のマグロを食べた。その他にも地元の海産物を色々と握りにしてもらい、地酒をたらふく飲んだ。タクシーに乗ってギリギリで空港に着き、最終便で東京に戻った。バス代の支払いだけで終わった秋田県とは比べ物にならない貢献具合である。
たった半日の滞在だったが、文化的にも経済的にも北海道に貢献できた。やはり北海道新幹線は有益である。
(地図の出典: 国土地理院・地理空間情報ライブラリー)