僕の人生、行く飲食店の数が限りなく少ない。何軒か好みの飲食店を見つけると、ひたすら行き続ける。バーは週に6日の高出席率であるが、実は2軒しか行っていない。そのほかに近所のレストランが1軒、蕎麦屋が1軒、ラーメン屋が1軒、やや遠いところに鮨屋が1軒。それだけ。
あたらしい店に行ってイライラするもの嫌いだし、がっかりするのはもっと嫌だ。気に入った一軒で、のんびりと時を過したいのだ。リスクヘッジな人生というか、自分の成功体験に縛られやすい。
こういう選択を繰り返していると、自ずと旅に出かける場所も、いい思い出の残っているところが多くなる。実際、二度以上行っている旅行先のなんと多いことか。
今年はスイスにマッターホルンを見に行くことにした。もちろん成功体験ベースの選択である。二年位前に3泊くらいで行ったのだ。登山電車の窓から普通にマッターホルンが見えた。これには感動を覚えた。しかも前回は快晴が二日続き、曇りの三日目は街で買い物をし、雪が舞ったのは帰る日だけだった。
今回は前回の成功体験をベースにしたので、マッターホルンの晴天率とかには全く興味のないまま、前回と同じく3泊すれば1回くらいは朝焼けを見て、1日くらいはスノートレッキングが出来るだろうとのプランである。しかも去年、視力回復手術を受けたので、山がくっきりと見えるはずだ。
スイス国内は鉄道移動が好きだ。駅や車内の放送は二ヶ国語ぐらいあって旅をしている気分になるし、電車は大体すいていて、ほぼ定刻運行で予約不要の列車はダイヤがパターン化されていて使いやすい。
そんなスイスの鉄道でマッターホルンを目指していたら、それなりにスケジュール通りに走るはずの電車が止まりだした。吹雪で送電に障害が発生し、隣駅までの電気供給を確認しつつ、一駅ずつ進んでいくらしい。それも許そう。飽きるほど乗っていると、マッターホルンの麓にあるツェルマットという駅に着いた。
普通の人はツェルマットに泊まるらしいが、マニアックなので更に登山電車でロッジを目指す。
目指すのだが、しかし、吹雪で登山電車は動いていなかった。山のロッジに電話をかけると、ツェルマットに代わりの宿を見つけてくれた。停滞1日目。
翌朝は晴れていた。しかし山の上のほうは雪が残って大変らしい。登山電車の駅に行くと、途中までは動いていたが、ロッジのある駅までは電車が動いていなかった。駅で聞くと午後からは動き出す可能性があるようなことを言っていた。駅のコインロッカーはスーツケースが入る大きさのものは使用されており、結局16時すぎまで駅の待合室で時間をつぶした。16時24分、やっと臨時便が走った。停滞2日目。
3日目は吹雪だった。午後から雪もおさまって電車は動き始めたものの、本日も停滞。これでは来た意味がないし、諸々の問題が発生したこともあり、滞在予定を2日のばした。
そんなこんなで成功体験がアテにならない事がよく分かった。同じことを同じようにやっても、駄目なときは駄目なのだ。これは人生的には悲しいお知らせといえる。
同じことを違う風にやると大体において失敗してしまう。それなのに成功したことを同じ通りにやっても成功する保証はない。人生は大変だ。