くさつのおもいで
ある日の夕方、近所のレストランにテイクアウトを取りに行き、代金を支払って店を出たところ、たまたま知人が通りかかった。レストランはガラガラ、ちょっと話もあったので、店に戻って飲み始めてしまった。早い時間なら酒が飲めた、やや平和な頃の話である。
さらにモノのはずみで温泉へ行くことになった。草津にクラシックな温泉宿があるとのことで、深く考えないまま目的地が決まった。
ミイラ取りがミイラになる、ということだろうか。
これで草津は2回目である。といっても、前回は何年前なのか分からないくらい昔だ。たぶん15〜20年くらい前ではないかと思う。
大浴場の金属水栓が変色していて、さすが本場は違うと思ったことを覚えている。その時に土産物店で湯の花を買ってきて、しばらく忘れていた。数年前に家を片付けていたら出てきたので、年に数回、思い出したように使っている。
草津へ行く前の日に、その湯の花を使い切った。新しいものを買ってこようと思って調べたところ、本物は貴重品であるとのこと。
そんなに貴重なのだろうか。無造作に買ってきて、放置していたくらいなのだが。そこらへんの入浴剤よりも保温効果があって、やっぱりホンモノは違うなと思っていた。
どうやら偽物が横行しているらしい。更にネットを探すと、真贋の見分け方も書かれていた。パッケージに「ニセモノ注意」と書いてあるにも関わらず、僕のは紛うことのない偽物だった。15年以上にわたって信じていたものが崩れ去った。
青天の霹靂、ということだろうか。
しつこいようだが、草津に行く前夜の話である。こんな具合だと、ランチの上州牛がオージービーフではないか、念の為に確認した方が良いだろうか。
草津には高速バスで行くのが便利でコスパいいらしいが、台東区民には上野駅がある。ふるさとの訛りが懐かしい停車場だ。トレンドに左右されず、由緒正しい上野発の特急列車で旅に出ることにした。関越高速の渋滞もないし、練馬で一般道に放り出されることもない。
由緒正しいはずの特急は、1990年頃に製造され、最初は常磐線特急だった車両の転用である。そんな少々ボロい特急列車は、かすかに昭和の香りが残る上野駅地平ホームから10時に出発進行。平成レトロといえば聞こえは良いが、電車も駅も30年前から大して変わっていない光景である。近頃は上野でも貴重になった場末感が漂う。
ちょっと寂しい特急は、かなり寂しいくらいガラガラだった。しかも大雨である。なんとなく俯きがちに高崎線を北上。それでも渋川から吾妻線に入ると里山の情景だ。桜も咲いていたりして、ちょっと良い気分になった。
途中で路線バスに乗り換え、草津に到着した。バスターミナルから雨の中を歩いて宿に向かうが、靴が浸水してきた。1年以上も放置していた靴を履いていったのだが、そういえば新品時点でも雨漏りしていたので、靴箱に放り込んで見ないようにしていた。僕の人生には放置物件が多すぎるのだろうか。さっさと捨てるべきだったが、もう遅すぎる。
後悔先に立たず、ということだろうか。
それでも撮影や買い物のため、大雨だったが何度か散歩に出た。やっぱり靴がズブズブになる。足湯というのは、僕みたいなボロ靴を履いた人のためのある。と思う。
しかし翌朝は晴れていた。ちょっと早めに起きて、改めて温泉街の散歩に出かけた。
湯の花は草津商工会のサイトに出ている物の入手に成功。ニセモノ注意とは書かれていないが、多分こちらは本物なのだろう。
終わり良ければ全て良し、ということだろうか。
旅のしおり:草津
再び計画性皆無の単純往復。列車等の時刻は訪問時のダイヤです。
1日目
上野 1000 (草津1号) >> 長野原草津口 1218
長野原草津口 1231 (JRバス) >> 草津温泉 1253
宿泊:草津ホテル
1日目Tips
・長野原草津口でのバス乗換は先頭の7号車が便利。
2日目
草津温泉 1100 (JRバス) >> 長野原草津口 1122
長野原草津口 1205 (草津32号) >> 上野 1424
2日目Tips
・特急「草津」はJR東日本サイトからの事前予約で通常は最大4割引。帰りはキャンペーンで5割引だった。
・行きのバス乗り換えはスムーズだが、帰りの長野原草津口駅での時間つぶしが厳しい。駅周辺には、ほとんど何もないので。