あもいのおもいで

毎年、冬休みの短期旅行は悩ましい。基本的に前年中は最後の最後まで仕事が残り、新年も数日は出社になるパターンである。ゆえに代休日数と旅行先との兼ね合いで仕事を入れている。

幸か不幸か、たぶん不幸なのだが、今年は土・日の絡みで無理に仕事を入れることはできず、正月休みに4~5連休が取れることになった。

スケジュール的にはヨーロッパまで行けるが、冬のヨーロッパは寒い。ハワイは高いし、オーストラリアは興味がない。あとは東南アジアくらいだろうか。そうはいってもタイベトナムに行ったばかりだ。

あまり無理をしたくないのは、大体の国で1月1日は祝日となり、丸1日ムダになるケースが多いからである。しかも12月31日のホテルは無意味に高価格な設定になっている。

正月休みは、短期旅行に行く観点からは悩ましい。

しばらく悩んだ後、1月1日出発で中国に行くことにした。昨年のGWには浙江省の杭州へ行ったのだが、その時にも迷った福建省の厦門である。1月なら厦門は乾季だし、中国マイナー路線はピークシーズンのANAでも航空券が安い。

厦門は昔の租界の町で、当時の建築物がコロンス島に残っている。このコロンス島が厦門で一番の観光地とのこと。休日を中心に、良い時間帯は島へのフェリーが混雑するらしい。しかも中国にありがちな実名登録制となっており、外国人には事前予約が難しそうだ。

検討の結果、コロンス島に泊まってしまうことにした。こうすれば島へ行くのは人出が落ち着いた夕方以降、島を出るのが人出が始まる前の朝となり、人の流れとは逆のパターンである。

もっとも観光地だけで満足できる僕ではない。調べたところ、厦門には大きな市場があった。第八海鮮市場というらしい。僕の旅行に市場訪問は欠かせない。行ってみることにした。

よくよく考えると、ここに問題がある。

第八海鮮市場ということは、他にも最低7箇所の市場があるのかもしれないが、問題の肝はそこではない。

中国の海鮮市場なのである。

1月の時点で湖北省・武漢では既に正体不明の肺炎が発生していた。そして僕は厦門に着いた日、ネットニュースで肺炎の感染源として海鮮市場が疑われているとの報道を読んだのだ。当時の報道内容としては、地理的にかなり限定的な状況とのことだった。湖北省政府だか武漢市政府だかが、状況はコントロールされているので問題没有と言っていた。

とりあえず僕は地図で武漢と厦門の距離関係を調べた。湖北省と福建省の間には江西省があり、江西省だけで北海道の倍くらいの面積がある。でっかいどうの倍なので、江西省は相当でっかい。

地理的にも離れているし、どこかの政府が問題ないと言っている事でもあるし、きっと問題ナッシングと判断した。そこでコロンス島から第八海鮮市場までの交通ルートを調べ、フェリーとバスを使って海鮮市場を訪ねた。

いまにして思うと、僕自身としては危機意識が低い。リスク管理能力のなさでもある。たしかに江西省は北海道の2倍の面積があるが、僕はたった4時間で東京から厦門まで飛んできたばかりなのだ。

しかも当時は武漢の海鮮市場で正体不明の肺炎が発生したという第一報に近いニュースである。武漢に問題があるのか、海鮮市場に問題があるのか、原因の切り分けはされていない。

さらに問題没有と言っていたのは、プロパガンダで有名な政党の支配下にある地方政府である。一概に問題ナッシングと判断すべきではなかったかもしれない。

以前、キューバのハバナ空港に行く途中で大爆発を見たのだが、それが実は墜落事故だった事がある。空港付近の大爆発を見ても航空機墜落は想像がつかず、何の疑いもないまま飛行機でメキシコに向かった。墜落事故を知ったのは、メキシコでホテルに着いた後だった。生存確認のメールやらLINEやらが来ていて、ニュースを見て初めて気付いたのだ。

僕は目にした危機を自分の身に置き換えられないのかもしれない。想像力の欠如であり、生存本能の低さでもある。来るであろう首都直下型地震に備え、もう少し危機意識を持って生きていこうと思った。