中途半端な日程で東南アジアに行く用事が重なり、これ幸いとタイとベトナム行きの日程をネジネジしてみた。
今年の旅のテーマは食わず嫌いの解消であり、僕の最大の食わず嫌いはタイである。ただし厳密な意味で食わず嫌いというわけではない。25年ほど前、タイに行っているのだ。
その時は成田からのユナイテッド航空でバンコクのドンムアン空港に向かった。夕方過ぎに到着し、空港に隣接する駅から、タイ国鉄でバンコク中央駅に向かった。暗くて古い客車と、中央駅付近のスラムのような住宅密集地が衝撃的だった。
タイと僕の不幸な関係は、この夜に始まった。
安宿に着いた後、夜食のため屋台村に向かった。屋台に行ってみて分かったのだが、僕はタイ料理が苦手だった。そもそも辛いものは得意ではないが、それ以上に酸っぱいものがキライである。行く前に分かっているべきだったのかもしれないが、まったく分からずにタイに行っていた。
翌朝にはタイ料理を早々に諦め、それからはハードロックカフェとケンタッキーという無難なアメリカンコンビでタイ滞在を乗り切った。
その後の人生において、タイ旅行に全く興味がなかったわけではない。僕だって象に乗ってみたい。
しかしタイ料理が最大の難関になっていた。そして、約25年間、タイには一度も行っていない。これこそ食わず嫌いである。
今回は万全を期してタイに行こうと思った。
タイ料理を避ける。これにつきる。わざわざタクシーに乗ってまで、イタリア料理店などに行っていた。
そこまでしても、タイにいる限り、タイ料理の呪縛からは逃れられなかった。
世界で最も無難な食事のチョイスとしてマクドナルドに行ったのだが、敵はチキンマックナゲットに潜んでいた。マックナゲットといえば、バーベキューソースとマスタードソースという失敗なしの鉄板コンビと思いきや、出てきたのはチリソースと、緑色の甘酸っぱいソースだった。僕にはチリソースは辛すぎるし、甘酢っぱいという感覚は理解できない。
タイのマクドナルドにはフライドポテト用のケチャップが備え付けられており、チキンマックナゲットはケチャップで乗り切った。
食事問題はギリギリで回避したものの、思いがけないことに、まだ敵がいた。ホテルのアメニティが地元メーカーの製品だったのだ。
これ自体は素晴らしいことである。しかし、シャンプーもコンディショナーもボディソープも、ココナッツの香りが付いていた。
今まで気付かなかった事実だが、僕はココナッツの香りもキライらしい。
そういえば今回の旅行でタイ国内線に乗ったのだが、搭乗時にギャレーからの匂いでダメになりかけた。僕のタイ料理に対する苦手感の半分は嗅覚から来ているらしい。
約25年ぶりにタイに行ってみたが、タイ料理は予想以上にハードルが高かった。いまやタイ料理は食わず嫌いではなく、味覚的にも嗅覚的にもキライだと断言できる。
食わず嫌いのままの方が良かったのかもしれない。透明性を求める時代ではあるが、グレーゾーンでいた方が幸せなことも多いのだ。