はばなのおもいで

何故なのか自分自身でも理解できないが、これで3回目のハバナである。今回は5月中旬に行ったのだが、既に雨季の始まりであり、なんとも天気が安定しない。日中には気温30度くらいで、晴れると刺すような日差しだが、基本的には一日中どんより曇って、時々雨が降っている。しかも湿度が70〜90%位と異様に高い。

相変わらず大気汚染がひどく、街を歩いていると喉が痛くなる。そして相変わらず夜は街灯が少なく、暗がりの朽ちかけたビルに人が住んでいる。

前回、バーを基準にホテルを選んだところ、クーラーは壊れており、シャワーの湯が出なかった。今回はTripadvisorを参考にして別のホテルを取ったが、相変わらず湯が出ない。他の客がシャワーを使っていないと思われるタイミングの時だけ、温水プールのような液体がシャワーから出てくる。クーラーは動いていたが、コントローラーが壊れていて部屋が妙に冷えた。ロンドンに行くと値段相応のホテルが無い街に来たと思うが、現地の物価を考慮に入れると、たぶんハバナはロンドンよりヒドい。

過去2回は各3〜4泊程度、それもハバナだけの滞在だったが、今回はハバナ4泊+田舎2泊と長めの滞在だった。日中は高温多湿に蝕まれ、夜はホテルのシャワーと空調のせいで疲れが取れず、最後の方は疲労困憊である。最終日には、飲みすぎた翌朝のような、ひどい胃もたれで起きた朝のような感覚だった。人生に効く胃薬が欲しい。

美術館や博物館には興味がなく、過去2回も熱意を持ってハバナ観光していたわけではないが、3度目ともなると観光する意欲は失われている。実際のところ、ハバナにリピートしたくなるような観光スポットはない。おそらく最高の建築物は国会議事堂ハバナ大聖堂だろうが、国会議事堂は最初に来た時から修復工事が続いている。かなり進捗していたものの、未だ終わっていなかった。未完の建築物といえばサグラダファミリアが思い浮かぶが、それですら完成したら再訪したいという程度ではないだろうか。一方、ハバナ大聖堂には一度行けば満足できる。もっとも中に入れないことも多いらしく、一度だけでは満足できない可能性もあるが。

前回の滞在時に見つけた野菜市場を再訪してみたが、小奇麗に改装されていた。チェ・ゲバラの絵が描かれていた壁は塗りなおされており、赤土の土間も舗装されている。市場で使用している秤は、以前には昔ながらの天秤だったのだが、今やデジタル式である。残念ながらキューバらしいディテールの風情は失われてしまったようだ。

多少の進歩は見られるものの、この街に劇的な変化はない。むしろ全体としては緩やかに朽ちていっているように思える。ここまでの話をまとめると、暑くて湿度が高く、全体的に不便でボロけているし、何が良いのか分からない街だ。しかも日本からだと地球の裏側のような場所である。そんな街に僕は腐れ縁のように3回も行っている。

しかし、よくよく見ると、そんなハバナにも評価すべきポイントはある。過去のハバナ訪問では二軒の素晴らしいバーに巡りあった。

仕事が細かいモヒートを出すバーには大きな変化はなかった。バーテンダーは変わっていたが、前のバーテンダーの時から変わらずにモヒートを丁寧に作っているし、良い雰囲気も変わらない。食事も美味しい。このバーに今回も入り浸り、砂糖抜きモヒートを飲んでいた。

地元キューバ人用のハードボイルドなバーは世代交代していた。渋い爺さんバーテンダーは週1回位しか来ていないとのことである。

店には小さなラジカセが設置され、CDやラジオが流れるようになっていた。商売的にも変化があり、ジュースや水も扱うようになっている。冷蔵庫にはビールもあるようだ。飲料のほかにも、タバコや葉巻もあった。多角経営の時代である。ミニマリストなバーとしての良さは失われてしまったが、キューバ庶民の正しい酒場という感じである。

もっとも客の側には大した変化がない。タバコは1本売りしているようで、そこそこ需要があるらしい。それ以外は何も変わっていない。営業時間は朝7時からなのだが、昼前からラムをストレートで飲んでいる。ジュースも水もビールも全く売れていない。陽気な新バーテンダーにタバコ (キューバ国内流通用のフィルターなしの安煙草) を吸わさせられ、葉巻 (キューバ国内流通用の安葉巻) を1本もらって帰った。

別の日に再訪すると、例の爺さんバーテンダーがいた。この店では30mlのメジャーカップを使って、ラムのストレート1杯60mlの量り売りをしているのだが、爺さんは隙あらば、そのメジャーカップにラムを注いで、そのまま自分で飲んでいる。ハードボイルドなバーテンダーというよりも、単なる酔いどれ爺さんになっていたが、それも悪くない。

この二軒をハシゴして酔っ払う以外は、ハバナ旧市街にあるCafe Parisというバーに行き、ライブを聴きながら、そこでも砂糖抜きのモヒートを飲んだくれていた。

よくよくハバナを見た結果、この街の評価すべき点は酒場関係しかない。ハバナの酒場は相変わらず素晴らしい。これこそが腐れ縁が切れない理由である。

いまのところ野菜市場をまわって満足した気分になっているが、数年後には禁断症状のような衝動にかられ、またハバナに行くのだろう。