人間は考える葦であるとパスカルは書いた。人間の強みは思考することにある。
今更、去年の夏の話をするのもどうかと思うが、隅田川の屋形船に乗った帰り、酔った勢いで上海へ上海蟹を食べに行くことになった。シーズンは10~11月頃らしい。ちょうど昨年中に有効期間が切れるマイルがあった。渡りに船ではないだろうか。
帰宅後すぐに調べたところ、都合の良さそうな便に無料航空券の空席があった。酔った勢いでの話を真に受けてはいけないが、早々に決めれば無料である。しばし悩んでいたが、たった1晩で悩むのが面倒くさくなり、翌日には予約を入れてしまった。無料航空券の場合はキャンセル料が安いせいもあるが、せっかちなオッサンなのである。
今回は旅行先での諸々を同行者にアレンジしてもらうので、航空券を取る以外は何も手配する必要がない。出発日の朝に寝坊しないようにして、財布とパスポートを持って旅立つだけである。僕の普段の旅行は短期集中型の個人旅行なので、事前に何も考える必要がない状況が理解しにくい。本当に何も考えなくていいのだろうか。根拠のない漠然とした不安を抱えて悩む。
グジグジと意味なく悩み、しかし何も考えないまま、気付くと1か月前になっていた。上海から新幹線で浙江省に行くことは既に決めていたが、上海で何をしたいかは考えてもいなかった。いろいろと調べてみたが、農民画のギャラリー、外灘の夜景、古いホテルのバーくらいしか考えつかない。こんな調子でいいのだろうか。悩ましい。
上海で何をしたいかを考えても大したアイデアはなく、そのうち考えることを放棄してしまい、ついに出発日になってしまった。全体としては3泊4日の旅程だが、浙江省で1泊するので、上海滞在は丸一日程度しかない。空港移動と睡眠の時間を除くと、活動時間は20時間以下ではないだろうか。時間を有効に使わないと勿体ないが、しかしアイデアは考えられない。
実際のところ、上海では悩むほどの行動時間はなかった。その丸一日の滞在中に上海蟹を2回も食べ、ギャラリーへ行き、夜景を見てからバーで酒を飲むと、たいして時間は残っていない。ちょっと観光してから街をブラブラ歩いたら、既に空港へ向かう時間になっていた。
僕の場合、思考というよりも、無駄に悩んでいるだけのようだ。しかも思考が必要な局面においては、考えることを放棄している。人間の強みを活かしきれていない。考える葦というよりも、むしろ迷える羊だ。
それもまた人間である。