シャウエンで2泊してからタンジェへ戻り、飛行機でスペインに向かった。
モロッコ国内での移動時間も含め、約50時間のモロッコ滞在だった。せっかくアフリカ大陸まで来たのだから、もう少しモロッコを旅しても良かったのだが、どうもモロッコには苦手な要素がありそうで恐れていたのだ。
世界一周系のブログを読むと、たしかにインド好きは多いが、一般的に旅行先としてはインドが一番ヤバいらしい。しつこい挙句に騙されるようだ。そしてインドの次に来るのが、モロッコとエジプトとのことである。僕の場合はトルコですら、偽ガイドと絨毯売りにつきまとわれて閉口していた。それより激しいのには耐えられそうにない。
モロッコで騙されるとすればショッピングだろうが、しかし何を買ったらいいか分からない。シャウエンに向かう車中から外を眺めていると、路肩でタジンの鍋を売っている売店を何軒も見た。たしかにモロッコぽい買い物ではあるが、わざわざ重いタジン鍋を買って帰る必要はなさそうに思えた。手軽なものと言えばモロッコ風デザインの雑貨だが、ベトナム製だったりしそうだし、部屋にモノが増えるのも困る。結局、モロッコのショッピングはアルガンオイルくらいしか思いつかない。
シャウエンは小さな町であり、アルガンオイルの専門店は無いようだ。一部の土産物店でアルガンオイルを売っていた。そのなかでも品揃えの良い店に目を付け、乗り込んでみた。
店を見ているとオヤジに話しかけられる。アルガンオイルが欲しいというと、ざっくりと商品説明をされる。とはいえ、どのアルガンオイルも同じに見える。決めかねていると、プラスチックボトルに入ったものはチープであり、ガラス瓶に入ったものがハイクオリティーとのことである。
心の底から納得するには決め手に欠く説明だが、とくに反論するだけの材料もない。
しばらくすると「このアルガンオイルがいいぞ」とのことである。瓶に入っているからハイクオリティーだし、店主の親戚の農園とのことである。ベリーグッド。
利益率が高いものを売りたいだけなのではないか。
そんな疑惑が生まれたが、別の店に行くのも面倒くさいので、値段を聞いた。すると何本買いたいのか、との質問。質問に質問で返される店はキライだ。
ここから交渉が始まるが、そもそも値段を知らないので、落とし所が分からない。この手の交渉は苦手なので、たぶん高い代金を払わされたと思う。そしてレシートのない現金決済。
結局のところ、どういう買い物をしたのか定かではない。質は良いのか悪いのか、平均的な利ザヤから見て相当ボラれているのか一般的なボラれ方なのか。アルガンオイルを買ったと思っているが、実はオリーブオイルだったかもしれない。モロッコの税制については全く知識がないが、ちゃんと店の売り上げから消費税や所得税などの税金は支払われるのか。
面倒くさいし、なんとなく不透明感の残る取引形態である。値札のある店で買い物がしたい。クレジットカードで払いたい。
とはいえ、シャウエンは田舎なせいか、都市部に比べると交渉自体はマイルドらしい。
しかし僕には一軒で十分だった。街をブラブラと歩いていて、モロッコのスリッパであるバブーシュが欲しいと思ったが、別の店でバブーシュの価格交渉をする気力はなくなった。
前日、モロッコに着いた時には、オープンな気持ちでモロッコに滞在してみようと思った。しかし、どうやら僕は心理的な敷居の高さから逃れられないようだ。改心は一日しか持たなかった。
早々にモロッコから脱出し、スペインでスーパーに行こう。値札がついて明朗会計だし、POSレジでレシートも発行される。クレジットカードでも支払える。
僕は文明に毒されているのだろうか。