実際のところ、二度目のハバナに至った理由は一軒のバーである。
ヘミングウェイが通っていたバーから南へ1ブロック。前回のハバナ滞在時、最終日の夕方にフラフラと入ったバーだ。店の名はRestaurante Castillo de Farnes。もう一度、ここに行きたかった。
なんの変哲もないレストラン兼バーである。そして、なんの変哲もないモヒートが出てくる。
とはいえ絶品である。
通りに面したテーブルがオープン席になっており、夕方になると、いい風が入ってくる。控えめに愛想のいい従業員が数人。混雑するでもなく、ガラガラというわけでもなく。時間帯によってはスペイン語のテレビ、運がいいと隣の店に入っているバンドの演奏。キューバ人の客は少ないが、観光客ばかりというわけでもない。ほどほどな日常感である。
そしてモヒート。
まずはミントを丁寧に扱っている。客のいないときは袋にいれて冷蔵庫にしまってあるし、使う前に茎やらダメな葉っぱやらを丁寧に取り分けている。それを念入りに潰す。ラムはドボドボいれるものの、ソーダはメジャーで測ってから入れるという、ちょっと分からないことになっているけど。そして最後にビターを数滴。
客の多いバーは、ミントをグラスに入れたまま出しっぱなしにしていたり、途中まで作りおいたりして、ちょっと雑然としており、結果的に大雑把な味になってしまっているが、ここは丁寧な仕事である。モヒートに限らず南方系のカクテルは大まかに作るものと誤解されがちであるが、丁寧な仕事には違いが出る。モヒートでもマティーニでも同じことなのだろう。
毎日、ここで砂糖抜きのモヒートを飲んでいた。ちょっとヘミングウェイぽい。ヘミングウェイみたいにバーの一席を潰して銅像を建ててもらうまでには至らなかったが、砂糖抜きモヒートの日本人として覚えられていた。しかも日を追うごとにラムの量が増えていく。
帰るべきバーが一軒ふえたのは素晴らしい。