さまるかんどのおもいで

二度あることは三度ある。
三度目の正直。

日本語の格言は矛盾している。おそらく確率からすると五分五分だろうから、どちらかを信じるしかないのだろう。僕は「コップに水が半分もある」と言うよりも、「コップに水が半分しかない」と思うタイプなので、基本的には前者を信じてきた。

僕の旅行計画は過度に緻密で、休暇なのか取材旅行なのか分からないと言われるほどだが、目的地に着いてからの細かい計画は、緻密とは無縁の非効率さである。

写真撮影がメインの旅なので、僕の旅行は目的地での滞在時間を多く取る傾向にある。似たような旅行日数だと、結果的に他の旅行者よりも訪問地が少なくなりがちだ。そして入場料を払ってでも、より良い撮影条件を求めて、何度も同じ場所に行っている。実際、昨年のドブロブニクでは入場料35ユーロの城壁に3回も入った。日本円総額で約15,000円である。浪費も甚だしい。

今回のウズベキスタン旅行は移動も含めて9日間だったが、予定の組み方によっては、滞在国数レベルの違いを生むようだ。出発日に成田空港で団体旅行のカウンターを見たところ、7日間か8日間でウズベキスタンとトルクメニスタンを訪問するツアーがあった。緻密であることが、効率的とは限らない例だろう。

今回の旅のメインはサマルカンドだった。ここで3泊の予定である。サマルカンドまでの移動については緻密な計画を立てていたが、サマルカンド滞在中は特に予定を立てていなかった。まずはサマルカンド到着直後にメインとなるレギスタン広場を訪れ、それから撮影計画を考えることにした。

レギスタン広場は観光客が多くて撮影が難しい挙句、広場を囲むように、東側、北側、西側に巨大なモスク (厳密にはマドラサというイスラム神学校) の跡地が3つ並んでいる。好天に恵まれたので太陽光が強すぎて影が出てしまい、順光で撮影するためには午前と午後に分けてレギスタン広場を訪問する必要がありそうだ。夕景が綺麗らしいので撮影したいし、夜のライトアップは更に美しいらしい。

結果的に6回もレギスタン広場に行った。さすがにレギスタン広場の入場料はドブロブニクの城壁ほど高額ではないが、ウズベキスタンの物価を考えれば、高めの価格設定だと思われる。回数が倍なので、物価差を加味して総額を考えれば、ドブロブニク城壁3回と似たような浪費だろう。

どうしてもレギスタン広場で撮りたかったのが、広場にある3つのモスクをおさめた夜景である。この為に三脚を持って行ったのだが、実際の撮影は異様に難しかった。

基本的に僕は緻密な計画性を持っているので、何度でもレギスタン広場に行けるよう、徒歩圏内のホテルを取っておいた。ただし、そこから先の計画はザルすぎた。

初日の21時にライトアップを見に行ったところ、そこそこの人出だったので、入らずに挫折してしまった。2日目は22時過ぎに行ったが、レギスタン広場は24時閉場にも関わらず、入場券の販売が終わっていた。無料エリアに展望スペースがあるので、そこから撮影した。遠景としては悪くないが、有料エリアの施設が写り込んでしまい、Adobe LightroomでAI調整が必要だった。

そして3日目の夜である。もう後がないので念のため21時半に行ったが、例によって人出が多い。飽きるほど時間をつぶし、23:50になって、やっと無人の広場を手に入れた。まさに三度目の正直である。その数分後、呆れた警備員に後5分で閉まるぞと声をかけられた。滞在日程を長く取っておいて損はなかった。

同じ都市に4日もいると、食事が問題になる。初日の夜は肉を食べに行ったが、どうも僕は羊肉との相性が悪いらしい。早々に胃もたれが発生した。旅行者でも行ける程度のローカルレストランを探したのだが、限られた仕入れしかしていないであろう牛肉は、外国人観光客で取り合いだったと思われる。僕が撮影の合間に行くような時間帯には売り切れていた。

結局、メインで食べていたのは、プロフというウズベキスタン料理である。ピラフの原形と言う説もあるらしい。これだとコメを食べられるし、副菜で美味しいトマトも付いてくる。良い専門店を見つけることができたので、サマルカンド滞在中は通っていた。

最初は15時頃に行ったのだが、作ってから時間が経っているようで、かなり油が強かった。ホテルに戻って調べてみると、地元の人々は好みのプロフ屋の出来上がり時間を把握しているらしい。その店をGoogle Mapで調べたところ9時開店だったので、翌日は11時頃に行った。しかし店先でプロフを作っている最中だった。

この状況で9時開店はないだろう。Google Mapが間違っていたのだろうと思い、1時間ほどの待ちを覚悟した。しかし奥の方でチンと音がして、早々にプロフが出てきた。料理は十分すぎるほど熱いが、ただでさえ多い油が劣化しており、前日15時より明らかに状態は悪い。

さすがの僕も学ぶ。最終日は13時頃に行ったところ、出来立てを味わうことができた。メチャクチャうまい。プロフにも3度目の正直があった。やはり滞在日程は長く取っておいて損はない。

おそらく普通の旅行者の倍くらいサマルカンドに滞在したが、完全に満足することができた。期間が長ければ、良い方に転ぶ確率が上がるという数学的な問題だろう。

結局のところ格言をどう捉えるかは、結果次第である。

うずべきすたんのおもいで

米沢藩の上杉鷹山は「なせば成る なさねば成らぬ何事も 成らぬは人のなさぬなりけり」との家訓を残した。

ずっと前に旅行先を探していたところ、青い巨大なイスラム建築が立ち並ぶ広場を見付けた。調べてみると、サマルカンドのレギスタン広場だった。ウズベキスタンにある世界遺産の街である。ウズベキスタン首都のタシュケントまで行って、そこから鉄道に乗れば行けるらしい。

言葉にすると簡単だが、いわゆるスタンの国であり、諸々の手配を含め、訪問しにくそうな場所である。最大の問題は日程で、羽田からの深夜便を使いこなせるような場所にはなく、しかも日本とウズベキスタンには時差が4時間しかないので、時差のマジックも通用しない。往復の移動だけで少なくとも2日を潰しそうな塩梅である。

当時だとソウル経由かモスクワ経由が便利そうで、アシアナ航空がタシュケントまで週3〜4便あると頭の片隅に入れたまま、放置されていた。その後、COVID-19による渡航制限が始まり、記憶は更に埋もれてしまった。

つまるところ「成らぬは人のなさぬなりけり」である。

ある日、その記憶の片隅に辿り着いたきっかけは、アシアナ航空と大韓航空が合併するニュースだった。アシアナ航空ならStar AllianceなのでANAにマイルが貯まるが、合併後は僕にはマイルが扱いにくいSkyTeamになるらしい。動機としては不純かも知れないが、ウズベキスタンに行く頃合いなのかと思い始めた。

丁度その頃の金曜日、バーで隣にいた客がウズベキスタンを絶賛していた。たぶん酔っ払っていた、その客の友達よりも熱心に話に耳を傾けていたと思う。たまたま店を出たのが同じタイミングだったので、僕にしては珍しく声をかけてみたところ、イスラム圏とは言え旧ソビエト連邦なので酒には寛容で、ビールだけではなく、ウォッカとワインも作っているらしい。蒸溜所がある国でワインを作っているのなら、果実系の蒸留酒であるブランデーも期待できるかもしれない。

ここまでくれば「成らぬは人のなさぬなりけり」に甘んじてはいけない。いまこそ「なせば成る」と信じる時である。そして、その週末にアシアナ航空の予約を入れた。

ホテルは予約サイトを見て決めたが、面倒くさそうなのは鉄道のチケット確保である。調べてみたところ、ウズベキスタン国鉄のチケットはネットで購入可能らしい。しかも座席番号の指定まで可能なようなので、1人がけ席のある一等車を狙う事にした。

ただし色々なサイトに早めの事前予約が必要だと書いてあるわりに、発売開始日がイマイチ良く分からない。45日前と書いてあるサイトが多かったように思ったが、50日くらい前に念の為に見てみたところ、既に発売開始になっていた。3区間を予約する必要があったのだが、一等車残り1席が1区間、一等車は満席で二等車残り数席しかないのが1区間、夜行便のような時間帯しかないのが1区間と、列車チケットの確保は完全に出遅れてしまった。しかもWebサイトではカード決済できず、ビビってアプリを入れたら決済できた。

購入後、冷静になってアプリを見直してみたところ、直近の列車には空きがあったので、列車によって発売日が異なるのかも知れないと思い始めた。数日おきに見ていたところ、いつの間にか下級種別の列車チケットが発売されていた。結局、チケットの発売開始日は分からないままだったが、ほぼ希望通りのスケジュールで繋がった。

あとは行くだけとならなかったのが、今回の旅である。出発直前にホテル予約サイトから予約確認書を印刷しようとしたところ、どうも挙動がおかしい。よくよく調べてみたところ、サマルカンドで予約したホテルが、予約サイトから消えていた。念の為にホテルへ直接メールを出したが、返事が来ない。かなり怪しいので、別のホテルを取り直した。出発数日前のことであり、あまり選択肢がなかった。

こうなると疑心暗鬼にしかならない。他の予約済ホテルにも些細な用事で連絡を入れ、自分の存在をアピールした。そしてタシュケント空港到着時にSIMカードを買おうと思っていたのだが、これまた念の為、eSIMを日本で購入してから行った。

他者に対しては疑心暗鬼になりやすいが、自らの失敗から学ばないので、出発前夜は懲りずに飲み過ぎていた。ほとんど記憶がないまま、自宅から成田経由でソウル仁川空港へ。仁川からの飛行機は期せずして北京上空へ達し、モンゴルとの国境線に沿うように西へ向かった。シルクロード感満載の飛行ルートだろう。

事前に調べた限りでは、タシュケント空港で飛行機を降りてからが最大の難関だった。ターミナル内には空港タクシーのカウンターがあるらしいが、かなり意味不明な価格設定との事。そして空港ビルを出ると、タクシーの客引きが凄いらしい。正解はアプリによる配車だが、彼らは空港内には入れないので、徒歩で空港の敷地外へ出るまでタクシーの勧誘を拒否し続ける必要がある模様。

しかし入国審査を終えて空港ターミナルから出たものの、なぜかタクシーの客引きがおらず、誰からも声をかけられない。群がるオッサン達を突き抜けて、猪突猛進で空港外の道路まで逃げようかと思っていたのだが、拍子抜けも甚だしい。

それよりもeSIMがLTEという一昔前の通信規格のせいか、LINEの送受信がおかしくなるほど回線速度が遅く、不安しかない。それでも配車アプリは使えて、タシュケント中央駅近くのホテルへ無事に到着した。

寝酒が必要だったが、旧ソ連なので酒には寛容といっても、どこでも酒を買えるわけではないらしい。近隣でビールを買える店を教えてもらい、酒屋まで外出した。

翌朝になっても疲労は抜けていない。これは流石に前々日の深酒が原因ではなく、出発2週間前にCOVID-19に感染したので、体力が戻っていないせいだろう。先行きに不安が残るが、なんとか気力で起きて、タシュケント中央駅へ向かった。

高速鉄道が取れなかったので、この日の列車は客車編成の特急である。一等車だが、ちょっと古めの座席だった。そんな座席を気にする余裕はなく、列車が発車するなり眠りに落ちた。2時間くらい寝たところで起きたら、荒涼とした原野の真ん中だった。これこそがシルクロードの景色なのだろう。車内で微睡みながら、シルクロードを更に進む。

列車は30分くらい遅れてサマルカンド駅に到着した。ここもタクシーの客引きだらけだと思ったが、わずか数人いる程度である。速攻で駅前広場へ逃げ、配車アプリを利用してホテルへ向かった。

チェックイン時間前だったが、部屋に入れてくれた。荷物を置いて、休む間もなく、レギスタン広場へ行くことにした。

乾季のせいもあって、快晴だった。青空の下、壮観なレギスタン広場を見て回った。「ティラ・コリ・マドラサ」の中にあるモスクが特に素晴らしい。レギスタン広場を一通り見たところで、一旦、ホテルへ戻ることにした。

レギスタン広場までの移動だけで1日半を費やしたが、ついに僕のシルクロードの旅が終わった。まさに「なせば成る」のである。

ウズベキスタンで上杉鷹山の教えに近付いた気がした。

みえのおもいで

今年は空梅雨に近く、早い時期から暑かった。たまたま7月に秋田県象潟へ鳥海山麓にある滝を見に行ったところ、周囲は酷暑だったのにも関わらず、滝の周囲には清涼感が漂っていた。避暑というものは標高だけが重要だと思っていたのだが、他にも手段があるのを今更ながら知った。

8月は更に暑く、夏バテ気味になったので、再び涼を求めて本格的に滝を見に行くことにした。調べてみたところ、三重県に赤目四十八滝という場所があるらしい。滝が48か所もあれば涼しいに違いない。

当日は晴天に恵まれた。当然ながら酷暑である。大して調べずに行ったところ、滝の入口からは結構な上り坂が続いていた。しかも往復で約3時間のトレッキングである。

ところで僕の科学的知見によれば、川は標高の高いところから低いところに流れる。そして滝とは川の落差の激しい場所に存在する。ゆえに、滝が48か所もあれば、相当な標高差になるのは当然だろう。トレッキングであれば、その標高差を自力で登らなくてはならない。現地に着いてからでは、気付くのが遅すぎたと判断せざるを得ない。

滝のような汗をかきながら、滝を見ながら上り坂を登っていった。残念ながら滝の水量が少なく、聞いていた程の迫力がない。むしろ汗まみれになった僕のシャツの方が迫力あるかもしれない。そういえば今年は空梅雨だったので、それが水量に影響を及ぼしている可能性は高い。現地に着いてからでは、気付くのが遅すぎたと判断せざるを得ない。

休憩を兼ねて水辺に行ったものの、たまに良い風が吹いて気持ち良いのだが、清涼感は少ない。途中でミネラルウォーターの無人販売をしていた。湧水を利用して冷やしているのだが、多少ばかり冷たい程度である。

そういえば秋田県象潟の滝は鳥海山の伏流水だった。そこまで標高の高い山は三重県と奈良県の県境にはなく、そもそも紀伊半島は東北地方ではない。秋田県と山形県の県境とでは、地理的にも気候的にも異なる。現地に着いてからでは、気付くのが遅すぎたと判断せざるを得ない。

赤目地区の旅館に泊まると、チェックイン日の四十八滝入場券で、翌日にも無料入場できる特典がある。それを活かそうと思っていのだが、清涼感のない3時間のトレッキングは気が進まなかった。滝を再訪するのは止めて、伊勢へ行くことにした。

伊勢神宮は正式な順序で参拝すべきなのだろうが、時間の関係もあって外宮参拝は見送らざるをえなかった。「時間の関係」の原因とは、つまるところ有名和菓子店の赤福本店である。想像通り、伊勢で作りたての赤福は、名古屋駅で買う赤福よりも美味しく感じた。

今回は僕にとって初めての三重県訪問だった。現地に着く前から想像が付いていた唯一のものが赤福である。結果として、三重県は手強いと判断せざるを得ない。

三重県に関する知識は皆無に近かったし、そもそも滝の周囲が涼しいと前月に知ったばかりである。慣れない事に対しては、もっと注意深く考慮すべきだった。その認識がカギだとすると、それこそが「無知は知」なのだろう。

僕は三重県で人生の深淵に近づけた。

旅のしおり:三重

記載の時刻等は訪問時のダイヤです。

1日目

新横浜 08:39 (のぞみ219) > 名古屋 09:56
名古屋 10:30 (近鉄特急) > 名張 11:56
名張 11:59 (近鉄) > 赤目口 12:02

・赤目四十八滝

宿泊:対泉閣

1日目Tips
・名古屋駅の新幹線ホームで、ひつまぶし駅弁を購入。それを近鉄特急で食らう。

2日目

赤目口 (近鉄) 09:00 > 名張 09:03
名張09:05 (近鉄特急) > 伊勢市 09:54
伊勢市駅からタクシー利用

二見興玉神社

夫婦岩東口 11:33 (バス) > 内宮前 12:00

伊勢神宮内宮
すし久
赤福本店

タクシーで五十鈴川駅へ
五十鈴川 14:49 (近鉄特急) > 名古屋 16:17
名古屋 16:49 (のぞみ418) > 新横浜 18:06

2日目Tips
・二見興玉神社へ最初に行ったので、最初と最後だけは順番通りに伊勢神宮を参拝できたと思う。
・週末を外したので、待ち時間なく赤福本店に入れた。